あぐらをかいていて立ち上がってから左膝の痛みと不安定感が続いています
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左膝の痛みがある60代男性のお話です。
60代と言っても人の活動性は様々ですが、この方は趣味でテニス歴40年、大会レベルのヨット競技にもでるようなアクティブな男性です。
この2年間コロナで運動不足であることは実感していて、体重も増えたのだとか。3週間ほど前に、30分ほどあぐらをかいていて、立ち上がろうとしたときに左膝の内側にこわばり感のような感じを覚え、以後、左膝の不安感を感じるようになったようです。その後、徐々に良くなっている感じはあるのですが、好きなテニスも側方支柱のついたサポータをつけて横にひねらないような感じで恐る恐るしている感じです。
座った状態ではなんともないようなので、まずは立ち上がってしゃがんでもらうと、左膝の痛みというほどではない少し嫌な感じがあります。また、立って左膝を外反するような感じでひねるのも嫌な感じがあります。
左膝の症状は今回が初めてのようですが、かなり前からテニスをすると左殿部〜大腿が痛むことを自覚しています。
さて、お話を一通り伺ってから評価を続ける前にもう一度、先程の嫌な感じがあったしゃがみ込みと横に動かす動作をしてベースラインを確認してみます。
さっきと同じようにしゃがんでみましょうか
ゆっくりだと大丈夫ですね
もう少し速くしゃがんでみましょうか
今はなんともないですね…
横に捻るのはどうでしょう?
これも今は大丈夫です
このようにさっきは嫌な感じがあったのに、今は何ともない…このあたり、マッケンジー法を知っている人ならピンとくるところかもしれません。
片足立ちのもも上げを高くしてみたり、いろいろと動いていただきましたが症状は再現できません。
このようにベースラインが設定しにくいとき、マッケンジー法ではお伺いした情報から動かす方向などを決めて評価を続けます。
自然に座った姿勢は猫背で、姿勢矯正保持してみますが、とくに症状は変化ないようです。
今回はもともとお元気な方で、ひょっとしたら一時的に症状が悪くなるかもしれないというマッケンジー法の評価についてご理解いただけましたので、座った状態で腰椎の屈曲をしてみます。
まずはしっかりと1回、特に問題ないことを確認して続けてトータル10回。
さっきのしゃがむのをやってみましょう
なんか力が入りにくい感じですね…
左膝の不安定感が自覚されました。
(FISit 10回 W)
先程はなんともなかった症状が悪くなりましたので、今度は逆にしっかりと伸展する動きを10回。
もう一回しゃがんでみましょう
全然問題なしです!
(EIS 10回 B)
先ほどと同じように片足立ちしながら
片足立ちもしやすいです
さっきとは違いますか?
さっきはこうやってぐるぐる足を動かせない感じだったんですが、軸がしっかりした感じです
歩いていただくと、
歩くのも、足の趾までしっかり力が入っているのがわかります!
このように最初は自分では気づかなかったレベルの変化もしばしば改善後に違いを感じる人は少なくありません。
今回、左膝の痛みが診察時に再現できませんでしたから、まだ結論は出ていませんが、どうやら今回の膝痛も腰椎に関連した症状であったようです。
私のところにみえる患者さんで、病院に行ったときに症状がなくて、「症状があるときに来てください!」と言われたという患者さんからの不満の声が時々聞かれます。
メカニカルな刺激に対する反応により評価をするマッケンジー法では、症状が無いときは評価がより難しくはなるものの、患者さんの感覚によるフィードバックが得られさえすれば、それがたとえ僅かな変化であっても、それを手がかりに評価を進めていけるのです。