思い当たるきっかけもない右母指の痛み
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は2ヶ月ほど続く右母指の痛みで来院した70代女性のお話です。
2ヶ月ほど前から、なんとなく右母指の付け根が痛い感じを覚えるようになりました。この1〜2週間ほど痛みが強くなってきたため、お友達から勧められて来院しました。
このマッケンジー法を勧めてくださったお友達は、以前膝が痛くて来院され、腰椎のエクササイズで症状が劇的に改善した方で、ご自身の経験からすぐに治るからと言われて受診を決めたそうです。
痛みの程度は日によって違うようで、時に痛くないときもあるそうです。このあたり、これまでマッケンジー法通の方ならピンとくるでしょうか。
日常生活状況をお伺いすると、タブレットで一日中読書をする習慣があります。
現在の症状を確認します。すると、
昨日はお箸も持てないくらい痛かったんですが、今は押したら少し痛いくらいです
と、右母指の付け根あたりをおさえながら答えられます。
今は瓶の蓋開けなども痛みなくできるようです。
この押したら2点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みしか症状が再現できないため、この痛みをベースラインとして評価を続けます。
座っている姿勢はやや頭が前に出た状態で、頚椎の単純X線写真では生理的な前弯が失われストレートネックであることがわかります。
まずは姿勢を矯正保持すること1分。
さっきの痛むところをもう一回押してみてもらえます?
ん…さっきよりいいかも
(姿勢矯正保持 B?)
首の動きには特に問題ありませんので、さらに続けてしっかりと背骨を伸ばす動かし方をご説明して、続けて10回やってみます。
運動している間には特に変化はないようです。
痛いところを確認してみましょうか
ん、あれっ……?痛くないです!
どうやら首の体操で良くなりそうですね。でも、同じような症状であっても必ずすぐに良くなるとは限らないので、誇大広告の無いようにとお友達にもお伝え下さいね
あまりにも劇的に良くなる事があるため、ときに治ったご本人が宣伝してくださるときに「魔法のように治るから」などと人におすすめいただくことがあるようですが、これは魔法ではなくマッケンジー法の分類で比較的早く良くなるタイプの病態であったに過ぎません。
しかし、このようなすぐに良くなるタイプの病態であるにも関わらず、適切な評価を受けていない人が多数いらっしゃるというのも事実です。
これまでにも手指の症状が頚椎・胸椎のエクササイズで改善するお話をご紹介してきましたが、指を動かすときに痛い、押すと痛いといった症状がその指局所の問題ではないことが決して稀ではないことをお伝えできれば幸いです。