歩いているときに急に左股関節が痛くなりました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左股関節の痛みが続くという60代女性のお話です。
新型コロナ感染症のために運動量が減った方も多いのではないでしょうか。この女性は、むしろウォーキングをコンスタントにするようになったようで、一日30分から1時間ほど毎日歩いていたそうです。
2ヶ月ほど前にウォーキングしていて急に左股関節が痛くなり、歩けなくなりました。整形外科にかかりMRI検査で左股関節に少し水が溜まっているけれど、大したことはないと言われて、痛み止めなど出してもらったのですが、勧められた左股関節のリハビリはとても痛くてやる気がおきず、そのままそちらの整形外科には行かなくなりました。その後、整骨院で鍼治療、マッサージなど受けていましたが、施術のあとは少し良いかなという感じはあったものの、翌日にはまた悪かったようです。とはいえ、2ヶ月前の頃からすると少しずつは良くなっていると感じています。
座っている状態でお話を伺いますが、その状態でじっとしていても左股関節に3点（考えうる最大の痛みが10点満点として）の痛みがあるようです。
立ち上がってみますが、立ち上がるときの痛みも3点で痛みが強くなることはありませんでした。
立ったままでうかがいます。
いまは左股関節の痛みはどうです？
あまりかわらないです
座っている時も立ち上がるときも立ったままでいるときも同じように痛いようです。
このあたり、股関節の症状として皆さんはどう思われるでしょうか。
座ったままで左太ももを上げる動作がしづらく、少し痛みが強くなり、5点になります。
姿勢を矯正して保持してみますがあまり影響はありません。
腰椎の可動域をみると、横に動かすときに少しだけ左股関節に響くようです。
（RSG produce 左股関節痛）
ここからどう動かしてみるのか。
今回はいろんな動作であまり変化がなかった中で座ったまま太ももを上げる動作では痛みが強くなったことに着目して腰椎の伸展を選びました。まずは立ったままでしっかりと腰を10回伸ばしてみます。
また座ってももを上げてみましょうか
まだ少しだけ痛いけど、だいぶいいです！
先程痛みがあった腰を横に動かす動きをしていただくと、
さっきより動かしやすいです
（反復EIS 10回 NRS 5 → 2, B ROM↑）
さらに10回、立ったままでしっかりと腰を伸展してからうかがいます。
足踏みしてみましょうか
軽くなりました！
（反復EIS 10回 NRS 2 → 1, B）
左股関節の痛みも探ると痛いかなというくらいで、座っての腿上げが楽々できているのがわかります。
YouTubeでみつけた股関節のストレッチのエクササイズをやっていたと話されました。
左足を右大腿にのせて左股関節を広げるようなストレッチのようです。
そもそもこんなに左足を右のももに乗せられなかったんです…
このような動作をしようとすると左の股関節が痛くて左足が上がらずできなかったそうです。
なぜ痛みが強くなったかわかります？そのストレッチをしているときに腰がどうなってるかよく観察してみてください。……ねっ、腰が曲がってるでしょ？
YouTubeには様々なエクササイズ法が紹介されています。それらが悪いというわけではないのですが、ビデオクリップを見るだけの教材は、基本的に症状が全くない関節も自由に動かせる健康な人向けの内容だと思っていたほうが無難です。マッケンジー法ではある運動負荷をかけたときの反応、つまり、その時にある症状がどのように変化するのかを細かく確認してエクササイズ法の是非を判定しています。一方、テレビ番組やネットのビデオクリップの一方通行の素材では、このようなフィードバックの評価が無いのでそれを続けてよいのかどうかの判断が難しいのです。
自分で何かできることをやってみるという姿勢はとても大切なことです。自分がしてみたいと感じたことをやってみて、やっぱり症状が改善しない…そんなときにはマッケンジー法のことを思い出していただけますと幸いです。
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