ゴルフのしすぎでしょうか、右肘が痛くなってきました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右肘が痛くて来院した40代男性のお話です。
現場監督のお仕事で、動き回る事が多いのですが、力仕事はさほどないようです。
2週間ほど前に、ふと右肘あたりがなんか痛い感じがしました。
その後、肘を曲げ伸ばしするときや物を持つときなどに響くようになり、趣味のゴルフのし過ぎかなと思っていたようです。日に日に悪くなるため、一度整形外科で診てもらったほうがいいかと考えて受診しました。
痛みの部位をお伺いすると、最初は外側だけだったのが、今は内側も動かし方で痛くて、はっきりとここだという痛い場所がわかりません。もともと痛風をお持ちで、手元にロキソニンを持っていたので一度飲んだらそれなりに痛みは改善したようですが、薬が切れるとまた痛みがぶり返してきます。
右手をグーで右肘をしっかり伸ばすと7点(考えうる最大の痛みが10点満点として)、グーで右肘を曲げると5点、デスクを抱えるような動作で3点の痛みが再現できることを確認しました。
姿勢は頭が少し前に出ているやや悪い姿勢です。
病院ですから念のため頚椎、肘も単純X線写真も確認してみましたが、頚椎はやや後弯になっていて、骨棘の形成され方から比較的長い期間そうであったことが伺えます。右肘は関節の状態はきれいに保たれていて全く問題ありません。
マッケンジー法では肘の症状は……そう、頚椎の評価からでしたね。
ゴルフはもちろん、普段から体を動かすのは得意な方のようで、首の動きにも問題はありません。
まずは姿勢を矯正して保持してみます。
姿勢を整えるやり方をご説明してやっていただくと、飲み込みが早く上手にしっかりと良い姿勢を続けられます。
けっこう背筋にきますね…
これまで動かしたことのないような動きですから、良い姿勢をしっかり続けるだけで汗をかくほど背筋に効いてる感じがするという方は少なくありません。
さっきの肘を伸ばすやつやってみましょうか
痛いですね……あれっ、曲げる方はさっきより痛くないかも……
少し痛みの感じ方に変化が見られましたので、引き続き頚椎の評価を続けます。
良い姿勢からさらに顎をしっかり引く動作を10回ほど続けてからもう一度同じ動作をしてもらいます。
伸ばすのはさっきより痛くないですね……曲げる方はあまり変わらないかな……
さらに、頚椎の伸展までしっかりと5回。
曲げる方はまだ少し痛いですけど、だいぶ軽くなりました!
デスクを持ち上げるのは?
おぉ〜っ!これは痛くないです!
0点?
何度も確認して持ち上げながら、
0点です!
さらに負荷を上げるやり方をご説明して頚椎の伸展を5回追加。
もう伸ばすのは痛くないです!…曲げるのはまだ痛いかな…
どうです?ロキソニンよりよく効いたでしょ?
そうですね!
もう方向性は見えてきましたので、宿題をご説明して初回評価を終了しました。
私自身が評価した肘の痛みで外来に来られた患者さんについてマッケンジー法による評価の結果がどのような分類であったのかを後向きに調査して2020年に開催された第63回日本手外科学会学術集会でポスター発表したことがあります。その結果は肘の痛みを主訴に来院する患者の約4割が頚椎に関連した疼痛でした。
その割合は2019年に報告されたEXPOSSの研究とほぼ合致しています。
今回はよくゴルフをなさる方の右肘の動作時の痛みでした。単純X線写真には異常がありませんでしたから、肘関節炎またはテニス肘と呼ばれる上腕骨外側上顆炎や腱鞘炎のような診断がついて消炎鎮痛剤の内服や外用薬が処方される場合が多いのではないでしょうか。この方は首の症状や右腕のしびれなどの症状は全く無かったのですが、評価の結果は頚椎に関連した右肘の疼痛でした。
湿布や飲み薬などで良くならない四肢の様々な痛み……一度はマッケンジー法による評価を受けて見る価値があるかもということをお伝えできれば幸いです。
【参考文献】