土手の斜面で転倒してから右膝と右肩から上腕あたりが痛くなりました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は転んでから膝と肩が痛くなったという80代女性のお話です。
80代といってもご自分で社交ダンスを少し教えておられるというとてもお元気な方です。
数日前に溝の土を上げる作業をしていて、土手の斜面で転倒しました。転んだ時にどうなったかよく覚えていませんが、その後、右膝が痛くなりました。右肩から右上腕にかけても少し痛みがあるようです。
実際に診察室で歩いていただくと、右足を上げる時に右膝の内側に8点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みがありますが、足を着いて右脚に体重が載ってもさほど痛くありません。右肩から上腕にかけての痛みはさほど強くないので、まずは膝についての評価に集中してみることにしました。
座っていると右殿部に痛みあり、少し右大腿に響く感じを覚えることもあるようです。
もともと体を動かしておられることもあり、ご高齢ではありますが膝はもちろん、腰椎の可動域には問題ありません。
流し台のところで、腰をしっかりと伸ばすやり方をご説明し、5回しっかりと腰を伸ばした後に、もう一度、さっきと同じように歩いていただきます。
えっ?……痛くないです!
どうやら腰に関連した膝の痛みのようです。
外で園芸をしているときに腰を当てる台がないとのことですので、立ったままで台を使わずにバランスをとりながら腰を反らすやり方を5回。
上手に5回できました。
座って立っていただきもう一度歩き回っていただき痛みが本当になくなっているのか確認します。
まるで魔法みたい!
ご自分でやっていただくエクササイズをご説明して初回評価を終了しました。
それから3日後。姿勢よく座ることについては結構頑張ったそうです。
立ったままでのエクササイズのポイントがよくわからなくなってこちらはあまりできていません。
殿部と右上腕の痛みはもうよくなったようですから、右膝の痛みについて評価を続けることにします。
今日は立ち上がるときに右膝内側の痛みは3点くらいです。
お約束したエクササイズをどのようにしておられたのかまずはチェックしてみます。
立ったままでの腰の伸展エクササイズは、腰の伸展というより腰を引くような体操になっています。
そこで、このエクササイズのポイントを再度ご説明しながら、腰の伸展を5回してから、もう一度座っていただきます。
もう一度、立ち上がってみましょうか
あっ、今は痛くないです!
(EIS 5回 立ち上がりの右膝痛 abolish B)
それから6日後、初診から9日目になります。
朝起きた時にまだ3点くらいの右膝の痛みがありますが、それ以外、日中はなんともない状態になっています。
姿勢はいつも気をつけていると言われます。エクササイズのポイントを再度チェックしておきます。
10年ほど前に別の整形外科にかかったときに、右膝の半月板損傷があるので手術しましょうと言われんたんですが、どうなんでしょう?
半月板が傷んでいるとそこが痛いとは限らないんですよ。今回右膝が痛かったのが、膝ではなく腰の体操だけで良くなってきましたよね?
だから最初はわたしも、膝が痛いのに腰の体操というのがピンとこなくて、えっ?って思ったんですよ。でも確かに良くなってきてるし……
膝が痛いときに腰を動かすエクササイズ?
……誰だってそう思いますよね。
だって痛いのは膝であって腰は何とも無いんですから。
診察室で膝の痛みが腰のエクササイズによって軽減することを自ら体験してもらいつつ、膝の痛みが腰に関連していることが納得できるよう今回のような会話を繰り返します。
膝が痛くて来院される患者さんを評価してみると、腰椎に関連した痛みであることが少なくないことはこれまでもご紹介してきました。2019年9月に発表された、A study exploring the prevalence of Extremity Pain of Spinal Source (EXPOSS)という論文でもそれを支持するデータが示されています。
膝の治療を受けているけど、なかなか治らない……そんな方で、これまでマッケンジー法による評価を受けたことがない方は、一度お近くの国際マッケンジー協会認定セラピストが在籍する施設で評価を受けてみられてはいかがでしょうか。