半年ほど前にランニング中に右踵が痛くなりました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右踵の痛みがあって来院した10代男児のお話です。
半年ほど前、ランニング中にだんだんと右踵が痛くなり、その後も部活中に時々右踵が痛むようになりましたが、すぐに良くなるため放置していました。
一昨日急に走り出したときにまた右踵が痛くなりました。走ったら痛いのですが、歩くときはさほど痛みは感じません。小学生のころ、スライディングで右足首を捻ってサポーターで治療したことがありますが、それを外した後は別に痛いこともなく、不安感もありませんでした。今痛いのは踵あたりなのですが、当時使っていた支柱付きサポータを装着していると少し歩きやすいようで、それを装着して来院しました。
中学での部活は水泳で特に足首に負担がかかるということはありません。
装具を外して診察室を歩いてもらっても全く痛くありません。右足でケンケンすると踵からアキレス腱あたりにかけての3点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みが再現されました。
座っている姿勢をみると、最近のお子さんにはよく見られる丸く猫背の状態です。
姿勢を矯正して保持すること一分。
もう一度、右足でケンケンしてもらうと、痛み方がちょっと変わった感じがするようです。
立ってもらい、腰椎の可動域を確認します。さすが10代、全方向に自由に動き、踵の痛みは特に誘発されません。
まだこれという変化が見いだせないのですが、普段姿勢が悪いことを手がかりにまずは伸展方向から負荷に対する反応をみることにします。
立った状態で、腰に手を当てて、できるだけ腰をしっかりと、10回そらしてみます。
う〜ん……あまりかわらんかな〜
(EIS 10回 NE)
ここでさらに伸展の負荷を上げるのも一つの方法なのですが、まだ症状の変化がほとんどない状態ですので、今度は真逆の屈曲を座った状態で10回、しっかりとやってみます。
さっきのケンケンのときの痛みと比べてみてね
あっ、あんまり痛くないです!
(FISitting 10回 B)
自覚的にはかなり痛みが軽くなったようなので、続けて10回。
さっきと同じくらいかな…
(FISitting 10回 NE)
先程以上には変化はないようですので、この屈曲する体操を宿題にして初回の評価を終了しました。
それから3日後。
だいぶいいようです。エクササイズは一日6セットくらいできました。
やれば良い感じで、エクササイズの直後は完全に痛みがなくなるのですが、その後また1点くらいの症状が戻ってくる状態が続いています。
今はケンケンで1点の痛みがありますので、宿題にした座って腰をしっかりと曲げるエクササイズを10回やってもらいます。
ケンケンしてみようか
いまはなんともないです!
(FISit 10回 abolish B)
さらにしっかりと曲げるエクササイズとして仰向けに寝っ転がって、腰をしっかりと丸める体操をやってみましたが、ケンケンしても痛みは無い状態のままです。
座ってやるやり方より、腰のしっかり曲がる感じがわかるようですから、これもできるときにやってみることにしました。
それから5日後。初診から8日目になります。
ほとんど治ったようです。
寝転んでやるやり方もけっこう頑張ったようです。踵に軽い違和感を覚えても、エクササイズはやるとほぼ症状は消えて、次にエクササイズをやる前にごく僅かに痛むかなという程度です。
その症状も日々良くなっている感じがすると言いますから、もうしばらくエクササイズはこのままの負荷・頻度でやり続けて行くことにしました。
半年ほど前に始まった右踵の痛みでしたが、今回は腰をしっかりと曲げるエクササイズで速やかに改善してしまいました。
猫背のお子さんで腰を曲げたほうが良いというのは、なんとなく矛盾を感じる人もいるかもしれません。
一般的には日常的に繰り返される姿勢や動作が症状に関係していることが多いのですが、マッケンジー法で評価してみると、実際には今回ご紹介したお子さんのように予想とは異なることは稀ではありません。
マッケンジー法ではある症状に対してどのように評価を進めていくのかという大きなルールが決められています。得られた情報から予想した自分の考えにこだわって評価を進めるのではなく、姿勢の矯正、あるいは運動負荷に対する反応を見ながら次にどう評価を進めるのかを決めていくと、結果、症状改善への近道となるのです。