5年前に右のテニス肘、そして今回は左肘に同じような症状があります
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は、3ヶ月ほど続く左肘の痛みで来院された50代女性のお話です。
物流センターで長く勤務しておられ、荷物を抱える作業がよくあります。
5年くらい前に右肘が痛くなった時に、お近くの整形外科にかかったところ、テニス肘(上腕骨外側上顆炎)と言われて、注射による治療を何度か受けましたがさほどの効果はなく、また注射が痛いのと行く時間もなく整形外科には通わなくなり、それからは整骨院に通って治療をうけて1年ほどでよくなりました。
今回は、2〜3ヶ月前から、あまりこれといったきっかけもなく右肘の時とちょうど同じように左肘が痛くなりました。ものを抱えるときなどに痛みがありますが、同じ作業でもとても痛い時もあれば、さほどでない時もあります。
左上腕骨外側上顆(肘の外側の骨の出っ張りあたり)のやや遠位(少し手に近い方)に押すと痛い部位があります。左手で物を持つ動作などで同部に強く痛みを感じます。
荷物を抱えるなどの動作時だけでなく、何もしないでも痛い感じがする時もあり、現在、診察室で座っているときも少し気になるようです。
家では背もたれしてだらりと座ることが多いようで、姿勢を確認すると猫背ですが、そのことをお伺いすると自覚もあります。
気をつけなくちゃと思うんですが、すぐにまた猫背になってるんですよね…
意識はしているけど続かない…こんな方は少なくありません。
まずは現在のベースラインチェックをします。日常生活動作でどういう時に痛むのかをお伺いしてタオルを絞る動作で4点(考えうる最大の痛みが10点満点として)、フライパンを左手で返す動作で5点の痛みが再現できることを確認しました。
姿勢の整え方をご説明し、矯正して保持すること1分。背中がきつそうですが声をかけながら頑張っていただきます。
もう一回タオル絞ってみましょうか
あっ、……さっきより痛くないですね
さっきは4点くらいって言われましたが、今は何点くらい?
……2点くらい
フライパンを返すのをやってみましょう
これもさっきより痛くないですね。3点くらい
いま、肘には触りすらしてませんが、こうして痛みの感じが変わったことを考えると、やっぱり首に関係ありそうですね!
ですね…
最初は肘が痛いのに首ですか?と感じていても、姿勢を整えただけで痛みの感じ方の違いがあると自ら感じていただくことで、首に関連した痛みの可能性があるということを受け入れやすくなります。
可動域検査では自覚的には少しだけ左側屈、左回旋が違う感じがあるようですが、あまり大きな差はありません。
動きは問題ないレベルですので、最初からしっかりと負荷をかけるやり方で頚椎の伸展をまずは1回。
問題ないことを確認して、さらに4回追加してトータル5回やってみます。
タオル絞りながら、
これは……もう痛くないです!
フライパン返す動作をしながら、
これももう0か1かというくらい……
(RET+EXT w/op self B)
上腕骨外側上顆炎、通称テニス肘と呼ばれる病態があることをご存知のかたも多いのではないでしょうか。
リンク先の日本整形外科学会のホームページではその病態について解説してありますが、「病態や原因については十分にはわかっていません」と明記されています。
この上腕骨外側上顆炎の診断基準も定められてはいますが、そもそも病態について十分にはわかっていないことを診断するのですから、診断のためのエビデンスが不足していることは言うまでもありません。
今回ご紹介した2〜3ヶ月続くという左肘外側の痛みは頚椎の評価で著明に改善した事を見ると頚椎に関連した痛みであることは、おわかりいただけたかと思います。
私はこのような四肢の痛みが、さも局所の病態のように見えるものの、脊椎の評価をするとその症状が著明に改善してしまう、つまりその実態は主に脊椎に関連しているような病態を「○○モドキ」と呼んでいます。
5年ほど前に感じていたという右肘の痛みについても、時を遡ることができるのなら同じように評価をしてみたいと感じるのは私だけではないのではないでしょうか…。