case_142 左膝痛

レントゲン写真では膝関節の内側と膝蓋骨との間に変形もあり変形性膝関節症の状態です

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は2ヶ月ほど続く右膝の痛みで来院された60代女性のお話です。

清掃のお仕事を1日6時間、週に3回ほどしています。2ヶ月ほど前から右膝が痛くなり、正座や階段の降りるときなどが特に悪いようです。

単純X線写真(レントゲン写真)では左膝関節内側、膝蓋骨と大腿骨との間にごく僅かな骨棘(骨のトゲのような変形)の形成があり、また腰椎には外見ではわからない程度の変性による側弯がみられます。

症状や単純X線写真の所見をあわせると変形性膝関節症という病名が浮かぶのですが、マッケンジー法では…やはり腰椎から評価を開始します。

座った姿勢は猫背で姿勢が悪い状態です。
まずは姿勢を矯正して保持すること1分。

佛坂
佛坂

さっきみたいに膝を伸ばしてみましょうか

A子さん
A子さん

あらっ、今は痛くない

先ほどは痛かった動作で、今度は痛みがありませんでした。
立っていただき、しゃがみ込むと、まだ3点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みがあります。

痛みは左膝の内側なのですが、脊椎の関連性が疑われますので、さらに脊椎の評価を続けます。

腰椎の可動域にはあまり目立った制限などはありません。

先程の姿勢を整えて症状が改善した結果を参考に、立ったまま腰をそらす動きをご説明し、しっかりと5回反らしてみます。

佛坂
佛坂

もう一度しゃがんでみましょうか

A子さん
A子さん

さっきより痛くないですね…2点くらい

(EIS 5回 B)

加えて、さきほどより深く曲げられたことも自覚されています。
このように痛みだけではなく関節の曲がり具合や伸び具合も良くなる場合は実施している評価の方向が適切である可能性が高くなります。

初回評価の結果をふまえ、日常生活上の注意、立ったままでの伸展エクササイズのやりかたなど確認して初回評価を終了しました。

それから4日後。

かなりよいようです。

1セット4回を一日5セットくらい実施できたそうです。

現在の症状をしゃがんでもらって確認します。しゃがみ込みも深くなければ痛みはありません。
しっかりしゃがむと最初に痛かった部位ではなく膝窩外側(膝の後ろの外側より)あたりに4点の痛みがあります。

エクササイズをチェックします。
とてもよくできていて、いっぱいまで伸展したところで少しそのままの状態で負荷をかける感じにできています。

エクササイズ後、しゃがみ込むと少しだけ症状は改善します。

(EIS 4回 B 3点)

改善しているので、今のままで経過をみていくのも良いのですが、このエクササイズを軽くこなしておられるように見えますので、さらに負荷をかけるやりかたをご説明してさらに4回追加してやっていただきます。

佛坂
佛坂

もう一度しゃがんでみましょうか

A子さん
A子さん

だいぶいいですね…2点くらい

(EIS ER意識して 4回 B 2点)

さらに、より深くしっかりと膝が曲がっているのがわかります。

それから7日後、初診より11日目になります。

もうほとんど良いようです。

ちょっぴり残っているかなという程度になっていて、今は右踵をついて膝を伸ばすような動作で5点、それ以外はほとんど気にならないようです。
最初の頃とは症状がだいぶ違っていますね。このように同じ膝の痛みでも、よく聞いてみると痛みの場所が変わったり、痛む動きやタイミング、感じ方が変わったりすることは重要な所見で、マッケンジー法の分類でDerangementと呼ばれる比較的早期に症状の改善が得られる病態である可能性が高いことを示唆します。

エクササイズは1セット5回を一日5セットくらい実施できました。

エクササイズを実際にやっていただきます。

前回もそうだったのですが、とてもよく腰を反らせているので、立ったままでこれ以上そらすのが難しそうに見えます。

そこで、椅子をデスクに収納した状態で椅子の背もたれに腰をあてていただき、椅子の背もたれに腰をもたせながらよりしっかりと伸展してみます。

佛坂
佛坂

さっきの痛かった膝を伸ばすのやってみましょうか

A子さん
A子さん

いまはほとんど無いですね…

何度かしっかりと伸ばしながら確認してもらいますが、症状はほとんど無いようです。

(EIS椅子の背もたれ ER意識して 5回 abolish B)

エクササイズのポイントの理解も良く、今後は自分でやれそうとのことで卒業としました。

軟骨が加齢によりすり減って関節が変形する変形性関節症と呼ばれる状態は、痛みのある関節のレントゲン写真の所見で診断されますが、このような変形は実は無症状の方にも多く見られます。
関節が変形しているから痛いのでしょうか…。今回のお話から、必ずしもそうではないことをお伝えできれば幸いです。
膝の変形があって痛いのだからもう治らないと思っている方で、これまでマッケンジー法による評価を受けたことがない方は、一度最寄りのマッケンジー法認定セラピストの在籍する施設で評価を受けてみられてはいかがでしょうか。