膝が痛いのに腰のエクササイズででよくなる?
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左膝の痛みで来院された60代女性のお話です。
半年ほど前のある時、下肢の筋力が低下していると人に言われて、レッグカールなど座ってやるタイプの脚の筋トレを始めました。その2ヶ月ほど後に左膝が痛くなり、脚の筋トレはやめて、以後、上肢の筋トレのみにしました。左膝が痛くなってから、それをかばっているせいか、軽い腰の痛みも意識します。最近、膝上のこわばり感も出てきたため来院されました。とはいえ、とてもお元気な方で、週に1回程度テニスも楽しめています。膝の痛みについては鍼灸院にも相談したことがあるそうですが、そのときに痛いところはどこかと聞かれると、その時々で痛む場所が違っていたようです。このあたり、これまで症例ファイルをご覧頂いている皆さんにはピンとくるところでしょうか。
診察室での症状を確認します。歩行時、立ち上がりの時に左膝の内側(脛骨内顆部の鵞足あたり)の3点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みがあります。昨日から今日までの間で覚えている一番の痛みは、車から降りるときに9点ほどの痛みがあったそうです。長く座った後や、階段昇降でも痛みが強いことが多いようです。
まずは姿勢を整えて1分。座って立ち上がっていただきます。
あらっ…今は痛くなかったです
もう一度、座ってから立ち上がってみましょう
今度は少し痛かったかな
2回めにはまた少し痛みが戻っています。
マッケンジー法では膝の症状であっても、まずは腰椎の評価から行います。
腰椎の可動域検査では全く制限なく、どちらかというと柔らかい方でしょう。
引き続き立ったままの姿勢でしっかりと腰を反らす体操を5回してみます。
腰を反らした後に膝を少し動かしながら、
少しひねるときにピリッとくるかな…
(EIS 5回 B?)
今度は流し台に腰をあてて、安定させた状態で腰をしっかりと伸展してみます。
歩いてみましょうか
さっきよりだいぶいいです
さらに5回追加して腰をしっかりと伸ばしてから、歩いてみます。
…なんともないです
座って立ってみましょうか
なんともないです…なんか狐につままれたみたい……
(EIS流し台 5回✕2セット B)
エクササイズのご説明などして初回評価を終了しました。
初診から1週間後。まだ痛いようです。
エクササイズは一日10セット以上とかなり頑張っている方でしょう。
痛いときと、さほど痛くないときがあることに気づいています。
昨日は痛くて今日は痛くなかった理由はなんだと思いますか?
昨日は1時間ほど車に乗った後に降りたときが痛かったんです。今日はさほど長い時間でなかったので痛くなかったのかな…
初診のときは診察室で痛みがありましたが、今は車から降りて歩いてきているうちに痛みがなくなるので、症状としては軽減しているようにみえます。
それと、ストレッチをするときに痛いんです
どんなストレッチをするんですか?
実際にやっていただきます。すると、膝を抱え込んで思いっきり腰を丸めるストレッチをやっておられることがわかりました。
今は痛くなかったですね…
さきほどしっかりと腰をそらした後だからでしょうか、いまは膝が痛くなるという腰を丸めるストレッチをしても痛くありません。
この膝の上の方の凝ったような感じもとれるんでしょうか
今の車から降りたときの痛みがすっかりなくなった頃には良くなるんじゃないかと思ってるんですよ。その頃にまだ残っていたら他の治療も考えましょうね
初診から1ヶ月後。だいぶよいようです。
エクササイズも2時間おきにできていますから習慣化が出来ていると言えるでしょう。
今は左足に体重が載ると少しだけ左膝が痛む程度です。
エクササイズをやっていただき、もう一度膝の痛みを確認してもらいます。
まだ少し痛いですね…
しっかりとやるべきところを再度ご説明してもう一度やっていただきます。
今は痛くなかったです
「膝が痛い」ことと「腰のエクササイズでよくなる」こととがまだしっくり来ないのですが、むしろそのような方のほうが多いのです。
とはいえ、良くなることはわかっていますし、真面目な方ですからエクササイズはしっかりと続けました。
そして初診から2ヶ月ほど経ったある日。
9割良くなった感じと言われます。
昨日から一回だけ、車の運転後に少しだけ痛いかもと言う時があったのですが、ほとんど気ならなくなってきたようです。
エクササイズは一日5セットほど習慣化できているようですから優秀ですね!
もう卒業にしても大丈夫でしょうか?
ええ、大丈夫です
まだ完全に治ったとは言えない状態ですが、卒業のタイミングはご自分で決めていただきます。
それはマッケンジー法に限らず、医療を行う際、患者さん自身が許容できる範囲のセルフマネジメント(自己管理)が出来ていることが一つのゴールと考えているからなのです。