3年ほど続く右手関節の痛みと数日前からある左肘の痛み
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右手関節と左肘の痛みをお持ちの60代女性のお話です。
実はこの方、来院のきっかけは数日前からあるという右足の痛みでした。右足先を中心に軽度の発赤と浮腫による腫脹がみられます。熱感ははっきりしません。
単純X線写真を撮影すると、中足部基部周囲に小さな石灰化が数箇所みられ、いわゆる石灰沈着性の炎症のようにも見えます。
このような明らかな発赤を伴う腫脹がある場合はメカニカルな評価はせずに炎症など、病態に応じた治療となります。
右足については通常の石灰沈着性の炎症に対する投薬を行い症状は徐々に改善し、3週ほどで問題ない程度まで良くなりました。
治療を終了しようかと思っていたとき、ご本人から以前から気になっている右手首の痛みについてご相談を受けました。
今回は右足の痛みで来院されたのですが、右手関節については3年ほど前から、あまりはっきりとしたきっかけもなく痛くなったようです。
物を持ち上げるときなどに右手首がズキンと痛むのですが、その時の手の使い具合でなのか、母指(親指)あたりが痛いことも、尺側(小指側)が痛いこともあります。
現在もフライパン持ち上げ動作で8点(考えうる最大の痛みが10点満点として)となかなかの痛みです。
右手関節も少し脹れた感じがするようで、実際、左と比べるといくらか腫脹もあるようですが、足にあったような発赤はなく、熱感もありません。
今回の足の腫れ具合も合わせて考えると、手関節もひょっとして関連ありかと思いたくなるのですが、痛みの場所があちこちと動くというところが、マッケンジー法による評価を先に勧めてみたくなる大きなポイントとなります。
姿勢は比較的背中は伸びているのですが、頭が前に出た姿勢です。
(Protruded head +)
姿勢を矯正して保持すること1分。
あぁ、やっぱり痛いですね…
さっきと同じ?
そう言われてみると少しいいかしら…
少なくとも悪くはなさそうです。
頚椎の可動域に異常がないことを確認してから、しっかりと頚椎を伸展する動きを5回実施してみます。
フライパン持ってみましょうか
あれっ、さっきより痛くないですね…首?
(RET+EXT 5回 B)
察しの良い方で、いまやったことと手関節の痛みが関連していると感じられたようです。
さらに負荷を強くしてしっかりと5回伸展してみます。
もう一回フライパン持ってみましょう
だいぶいいです。力が入りやすくなりました!
最初は8点くらいとおっしゃいましたが、今は何点くらい?
2、3点くらいかしら……
(RET+EXT w/op self 5回 B)
頚椎のエクササイズで痛みは半分以下になりましたので、今回の評価はここまでとして自宅でのセルフエクササイズについてご説明しました。
その2日後。右手関節の痛みは半分にはなったのですが、それ以上は良くなっていないようです。
フライパンを振っていただくと、5〜6点程度とまだまだ痛みはあるようです。
ご自分でなさっていたエクササイズをやっていただき、チェックします。
う〜ん、さっきとあまり変わらないですね……
痛みに変化はありません。
やり方は形としては上手になさっているのですが、「しっかりと」やるところが少し甘いようです。
そこで、この限界までやる感じを意識してもらいながら5回。
あぁ、変わりました!
このちょっとしたポイントで効果がガラリと変わることは少なくありません。
それから2週間後。
右手関節の痛みは気にならないレベルになって、腫れも引いてしまい、すでに塗り薬も使わなくなっているそうです。
これで終わりかと思いきや、今度はバッグなど物を持ち上げる動作で左肘から前腕に響く痛みがでてきたようで、編み物するからだろうかと言われます。
もちろんエクササイズはちゃんと続けていて、体操で良くなるかと思っていたけれど、首の体操ではあまり変わりません。
症状の確認のため、ご自分のハンドバッグを持ち上げる動作をしていただき、3点の痛みが再現できました。
例の首を反らすエクササイズをチェックします。
すると少し上半身が後ろに倒れがちで、最後にしっかりと限界まで伸ばし切るところが出来ていないように見えます。
そこで、両手を膝について体が倒れないようなやり方に変更して5回。
もう一度バッグを持ち上げてみましょうか
今は痛くないですね〜
3年ほど前からあったという右手関節の痛みと数日前から出てきたという左肘の痛み。いずれも頚椎のエクササイズで、ほとんど気にならないレベルにまで改善しました。
しかし、そのエクササイズの効果が頭打ちになったとき、右手首や左肘など局所の評価に移る前に、負荷を上げる、あるいはやり方を変えてみるというのも一つの考え方なのです。