バスで座っていた後に立ち上がった時に左膝に激痛が走りました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左膝の痛みで来院された60代女性のお話です。
一ヶ月ほど前から、これといったきっかけもなく左膝が少し痛いと感じるようになりました。昨日、バスの中で座っていて立ち上がる時に激痛を覚え、以後、膝を曲げ伸ばしすると痛みが強くなるので、歩く時に膝を曲げないようにして歩いていました。じっとしているときの痛みの場所は膝の前面(膝蓋骨の遠位部とその両側)ですが、歩くときは左ふくらはぎ(腓腹部の膝窩近く)あたりが痛みます。診察の時点で立ち上がるとき左膝の痛みは8点(考えうる最大の痛みが10点満点として)とかなり強い痛みです。
単純X線検査では腰椎、左膝とも変形が見られ、画像上は変形性腰椎症あるいは変形性膝関節症の所見ですが、動かして問題になるほどの変形はありません。
(L4/5辷り、左膝変性軽度 内側・外側、膝蓋骨にも骨棘形成あり)
今回は立ち上がったときに急に膝が痛くなったとのことですが、捻ったわけでもなく、明らかな外傷ではなさそうです。いずれにしても、マッケンジー法では膝の痛みであれば腰の評価を先にすることは、これまでの症例ファイルで度々ご紹介してきたのですでにご存知のかたも多いでしょう。
姿勢が悪いので、まずは姿勢を矯正して保持すること1分。
もう一度立ち上がってみましょうか
さっきより少し立ちやすかったような……
腰椎の可動域をみてみます。
屈曲伸展など特に異常はないのですが、腰を左に動かした時、左膝にいつもの痛みが走りました。
(腰椎ROM RSG 軽度制限 produce 左膝痛)
姿勢の影響がありそうでしたので、腰椎の伸展から評価してみます。
体のバランスを考えて、流し台を利用してしっかりと伸展してみます。
まずは一回、特に問題ありませんので10回ほど様子を伺いながら続けます。
ちょっと歩いてみましょうか
少し歩きやすいような…
はっきりといいとは言えませんが、少なくとも悪い反応はありませんので、さらにしっかりと5回伸展してから歩いてみます。
膝が曲げやすくなって歩きやすくなりました!
初回評価はこのあたりにしてセルフエクササイズなどご説明します。
お薬ももらえますか?
もちろん痛みが強いとご不安でしょうから痛い時に飲めるように出しておきますね。でも痛いときには、まず体操をして、それでもだめだったらお薬という順番を忘れないようにしてくださいね
マッケンジー法ではお薬を否定するわけではありません。もちろん、クリニックでは必要に応じて鎮痛剤の処方もします。しかし、ただ処方するのではなく、エクササイズで改善する見込みがある方には、その使うタイミングをご説明します。
それから3日後。
だいぶ良いようです。
ズキンとする痛みは完全によくなりました。
痛み止めは2回飲んだそうですが、以後全く要らなくなったようです。
どんな時にまだ痛いのかを伺うと、寝返りをうつ時に左膝の内側が少し痛むだけで、あとは全く痛くないようです。
エクササイズは1時間おきにしっかりとやっているとのことですので、優秀ですね!
こんなに早く良くなるなんて…本当に良かったです
そしてそれからさらに3日後、初診から6日後になります。
ほとんどよいのですが、膝をグーッと曲げる時にまだ1点くらいの痛みがあります。
エクササイズは相変わらず1時間おきにしっかりとやっているそうなので、エクササイズのやり方をチェックしてみます。
体操なれして、「しっかりと」というところが甘くなっているのがわかりました。
そこで、声をかけながら、めいっぱい腰を伸ばしたところから、あと1cmという感じでしっかりと10回反らしてみます。
もう一度膝を曲げてみましょうか
膝をしっかりと曲げながら、
……いまは痛くないです!
(流し台 EIS ER意識して 10回 abolish B)
体操自体は上手に、しかもコンスタント出来ているのに、症状が完全に良くならない場合、本当にこのやり方のままで良いのかと他の可能性も考えます。
しかし、ほんのちょっとした意識すべきポイントをおさえてしっかりと同じエクササイズを行うだけで解決することも少なくないのです。