宿題のエクササイズをやっていたのですが効果がはっきりしません
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は手関節痛と右手しびれを主訴に来院した60代女性のお話です。
専業主婦で毎日1時間ほどウォーキングをしているお元気な方です。しかし、それ以外の時間はソファでだらりと過ごすことが多いようです。1年ほど前から右母指〜中指指尖部(右親指から中指の指先の方)のしびれ感を覚えるようになり、だんだんとしびれが強くなりました。2ヶ月ほど前から動作によって右手関節から右手背の痛みを覚えるようになり、かかりつけの内科の先生に相談したところ、一度整形外科にかかってみたほうが良いといわれて今回の受診となりました。
右母指〜中指のジーンとしたしびれ感は診察の時点でも感じられますが、知覚鈍麻はありません。
タオル絞り動作で手関節背側の痛みは3点(考えうる最大の痛みが10点満点として)で、これをベースラインとします。
単純X線検査ではストレートネックの所見がありますが、変形は軽度です。
姿勢が悪いため、姿勢を矯正して1分ほど保持します。
この時点で少ししびれが軽くなったような感覚があり、タオルを絞っていただくと、これもちょっとだけ痛みが少なくなっているように感じます。
(姿勢矯正保持検査 D-B)
頚椎の可動域には制限はありませんが、右回旋(右向き)、右側屈(右に傾ける)で右首筋に軽度の痛みが有ります。
基本的に首を動かしても問題ないことが確認できましたので、最初から比較的負荷を高めにしっかりと伸展する動きを5回やっていただきました。
少ししびれが軽くなったような。痛みも少しいいかな……
(RET+EXT w/op self 5回 B しびれ感軽減?タオル絞りは2点?)
若干痛みが軽減した感じがあり、方向性は良さそうですが、まだこれで大丈夫という程ではありません。
日常生活上の注意点、姿勢、エクササイズ内容の確認などをして初回セッションを終了しました。
それから3日後。
あまりかわらないようです。
しかし、ちょっと面白い経験をしたようです。
先日美容室で雑誌を読んでいた時のこと、右手が熱い感じがして、その時、首かな?と思って浅く座って姿勢を正していたらすぐに治まりました。
右手の症状にたいして姿勢を正そうとすぐに思われて、症状が速やかに改善したというのはある意味貴重な成功体験です。
方向性は合っていそうな予感がします。とはいえ症状はあまり変わらないとのこと。エクササイズをチェックします。
すると、顎を引くべきところで顎が下がり、伸展する動作で顎を上げるだけのような感じになっていて、やり方に少し問題があることがわかりました。
このようなときには、エクササイズを私自身がやってみせます。
よ〜く違いをみててくださいね〜
まず先に効果のなかったエクササイズを真似して悪いやり方を見てもらい、その後、良いやり方を見ていただきます。
アゴが最後に上る感じですね…
解説をしないでもポイントを察知されました。とても良い観察力を持っておられます。
さっそく修正したエクササイズを5回やっていただきます。
(RET+EXT w/op self 5回)
この瓶の蓋を開けてみてください
手首はそれほど痛くなかったんですが、今度は肘のあたりが余計痛かったです……
これはマッケンジー法のDerangementとよばれる分類で、適切なエクササイズを行っている時に見られることがあるcentralisationと呼ばれる現象です。
いま起こっていることが治る途中に見られることをご説明して安心していただき、さらに5回、しっかりと伸展するエクササイズを追加します。
さっきと同じように蓋を開けてみてください
んっ?…
何度か蓋を開ける動作を繰り返してみます。
痛くないです!
右手首の痛みはもちろん、先程あった肘の痛みもきれいに無くなっています。
宿題としてやっていただくエクササイズのポイントを再度確認し、2回目のセッションを終了しました。
このように、エクササイズの効果は、ほんのちょっとした違いでその効果がガラリと変わります。
また、同じやり方が必ずしも他の方に良いとは限らないため、それぞれの方にチューニングしたエクササイズを処方することになります。
つまり、マッケンジー法はそれぞれの人に合わせた完全カスタムメイドの評価・治療法とも言えるのです。