数年来の右肩痛、バドミントンのラケットの振り方により痛みます
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は数年来続く右肩痛について受診された60代男性のお話です。
もともと競技レベルのバドミントンをしいて、50代で九州大会優勝の経験もある本格派です。
3〜4年前から右肩が痛くなりましたが、それ以前にも左肩が痛くなって自然に良くなっていたこともあり、放置していたそうです。この1年ほどは右首筋にも違和感や軽い痛みもあります。段々と悪化している感じがするようで、たまたまご自分がバドミントンを指導している方から当クリニックでの治療経験を聞いて来院されました。
右肩の可動域は比較的保たれていますが、手を上げて肘を曲げる(外転+肘屈曲)動作で5点(考えうる最大の痛みが10点満点として)、手を後ろに引く(水平外転)動作で7点の右肩痛があります。
やや姿勢が悪いため、まずは姿勢矯正保持をしてみますが、同じ肩の動作をしていただくと、わずかにいいかもという程度で著明な改善はありません。
頚椎の可動域はよく保たれますが、左向きと左に倒す動作でごく軽い右首筋の痛みがあります。
医療面接から得られた情報と姿勢矯正保持検査の結果から、伸展方向は少なくとも悪くなさそうですから、まずは1回しっかりと負荷をかけて伸展していただき、特に問題ないことを確認してトータル5回の伸展をしていただきます。
さっきと同じ動作してみてもらえますか?
3-4点かな。少し軽くなったみたいです
(RET+EXT w/op self 5回 B)
良い印象ですから、さらにしっかりと5回。
右肩を外転して肘を屈曲する動作をしながら、
右肩が前に出しやすくなりました!
痛みは?
さっきよりさらにしっかりと肩を動かしながら、
1-2点くらいです!
(RET+EXT w/op self よりしっかりと5回 B)
来年の全日本目指します!
それから一週間後。
バドミントンのラケットを振るときの問題はもう無くなったようで、スマッシュもこの数年は押すような打ち方しかできなかったのが、すでに普通に打てるようになったと嬉しそう。
しかし、まだ肩外転内旋の動作では5点くらいの痛みが残っています。
実際にどのようにエクササイズをされていたのかをチェックします。
顎の引き方など細かいことを再度指導して、しっかりと負荷をかけることを意識して5回。
1点下がったくらいにとどまりました。
しかし、その後の会話のなかで、
これやったら全日本を目指せるかも……
まだ痛みは完全にはとれていませんが、すでにラケットを振る動作ではかなり自信がでてきたようで、現状についてご本人からでた言葉はとてもポジティブでした。
ぜひ全日本を目指しましょう!
全日本を目指さない理由は何一つありませんね。いままで諦めていたことが、また目標にできると感じた時、自らの症状に向き合いつつ、自由にやりたいことをやっていくというポジティブスパイラルに入ることができたのでしょう。
まずは現在の姿勢を意識した生活と、頚椎のエクササイズをできるだけこまめにやっていただくこととしました。
「まだ3点あるからダメだ」と捉えるのか、「もう3点にまで下がったから大丈夫」と捉えるのか。ものの見方で、人の行動パターンは大きく変わります。
人によってはこの方のようには考えられないこともあるでしょう。しかし、そういうネガティブな方に対しては、このような考え方のアドバイスをすることもマッケンジー法に限らず、医療者の大切な役割と考えています。