両膝の痛みのため近くのスーパーにも歩いて行けません
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は両膝痛を主訴に来院された70代女性のお話です。
とても働き者で、同居のご家族のために家事をあれこれとこなす毎日を送っています。20年来の両脚の痛みがあり、8年ほど前には両膝に水が溜まったこともあり、注射などの治療のために整形外科の病院に通ったこともあります。3〜4年前から急に悪化してきましたが、我慢していました。今の一番のご希望は近くにあるスーパーのAコープまで自分で歩いてでかけて買い物すること。今はご家族に車で連れて行ってもらっているそうですが、少しでも家族に迷惑をかけずに皆のために家事をやりたいというお母さんの鏡のような方です。
他の病院であれこれと投薬されたときには、処方された薬が多すぎて食事ができないようになってしまい、やめてしまったそうです。昨日は痛くて眠られず、家族に勧められて受診しました。
座っている状態でも痛みは5点(考えうる最大の痛みが10点満点として)、歩くと8点もの痛みがあります。
特にレッドフラグはありません。単純X線写真では多少の変形があり変形性腰椎症または腰椎変性すべり症ですが、メカニカルな評価については問題ないレベルです。
(単純X線写真:L2/3椎間狭小化、L4/5軽度辷り、L5/S変性)
しばらくお話をした後に、再度、現在の症状をお伺いすると、先ほどとは違うようです。
両側の膝蓋骨遠位周囲の痛みが3点、右ふくらはぎの外側にも押して痛みがあることが確認できました。
悪い姿勢を矯正して保持し、しばらくすると、
右のふくらはぎが痛いです
楽にしたら、痛みはすぐになくなりました。
(姿勢不良+ 姿勢矯正保持検査 下腿痛 I-NW)
腰椎の可動域検査では、いずれの方向も軽度の制限があり、前かがみのときと腰をそらす時のいずれも両膝の痛みが少し強くなります。
横に動かしてもあまりはっきりした変化はありません。
(ROM 腰椎屈曲・伸展 両膝痛 I-NW)
ROM検査の結果では屈曲・伸展ともに痛みが強くなったので、まだはっきりとした方向性は見えていません。
しかし、姿勢を矯正保持した際により遠位(足に近い方)の症状が強くなりましたので屈曲方向がよさそうなのですが、はっきりさせるために、まずは伸展を試してみます。流し台の縁に腰をあてていただき、しっかりと5回伸展すると……
両膝とふくらはぎが痛いです
いつもの痛みの感じですか?
そんな感じです
(EIS流し台 5回 W)
そこで、逆に屈曲をみます。
まずは一回、しっかりと屈曲します。
少し右足にきます
戻った後はどうですか
戻ったら大丈夫です
このように患者さんの痛みの変化を細かくモニタリングしながら注意して続けます。
そして10回後。
さっきあったふくらはぎの痛みはどうですか
ふくらはぎは……痛くないです
(FISitting w/op self 10回 B)
少し歩いてみましょう
歩けます!
まだ痛みはありますが、かなり改善しているようです。
ご自宅でやるべきことをご説明し、初回評価を終了します。
そしてその翌日。
だいぶいいようです。
昨夜は痛みが軽くて寝られたんですよ…
すでに膝の痛みは昨日と比べると8割ほど良くなった感じで2-3点くらいです。
体操をしたあとに少しふらつく感じがあったそうで、エクササイズをチェックすると、ややスピードが早い印象です。
そこで、前かがみするときにできるだけ首を固定したまま、ゆっくりと屈曲するように指導して、まずは1回。
ふらつきはないようですから、同じペースでトータル10回。
今の膝の痛みは何点くらい?
痛くないです……
0点?
……1点くらいでしょうか
あとはAコープまで歩くというより楽しい目標を探さなくてはいけませんね!
友達と旅行とか
そう、それいいですね!それを目標にしましょう!
それから数回の評価とさらにエクササイズの工夫など指導した後の初診から10日目。
エクササイズを始める前は、両脚の痛みのために朝からシャワーもおっくうだったのが、今朝はシャワーも浴びられたとニコニコ顔です。そして、最初の目標、近くのAコープに歩いていったら、途中で痛くなったのですが、立ったまま屈曲エクササイズ(FIS)をやってAコープまで行けました。さすがに帰りは迎えに来てもらったのですが、最初の目標が早くも達成できて、たいへん喜んでおられます。
両膝に水が溜まり、注射などの治療のために整形外科の病院に通ったこともあったそうで、ご自分では膝が悪いと考えておられましたが、少なくとも現在の両膝の痛みについては腰に関連したものだったようです。
マッケンジー法では過去に何という病名でどのような治療を受けてきたかという情報は参考にはしますが、その情報にとらわれることはありません。
結局のところ、いま目の前にいる患者さんを自らマッケンジー法により評価してその反応をみてみないと、なんとも言えないのです。