フライパンを振るときに左肘の外側に痛みが走ります
上腕骨外側上顆炎のようにも見えますが……
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回はスポーツインストラクターとして働いている左肘が痛くなって来院した40代女性のお話です。
何年も前から、腕を後ろに伸ばしてストレッチする時に左肘外側に軽い痛みを覚えていました。
最近、これといった思い当たることもないのですが、左肘外側が痛くなり、物を持ち上げにくくなりました。症状からは上腕骨外側上顆炎(テニス肘)のような印象です。
さらに詳しくお伺いすると、以前から左肩周りのちょっと気になる感じがあったようです。
実は1ヶ月ほど前に、ウォータースポーツをしていてウニの棘が足底に刺さった時に受診した方で、そのときにも左肘は痛かったのですが、ウニの棘のことで忘れていたそうです。
そして今回、左肘の痛みでいらしたかと思いきや、またまたウォータースポーツで足を切って来院されました…危険なスポーツですね。
さて、局所麻酔して挫創の処置が済んだ後、この左肘のことを今回は覚えておられました。
というより、実は今回はネットで私のマッケンジー法・症例ファイルを読んでいただいて、是非自分も受診してみようと思って来院し、受付で私が診察していることを確認して受診されました。
少しずつ一般の方にも記事を読んでいただいているようで嬉しく思います。
さて、スポーツインストラクターとして働いておられるだけでなく、趣味で冬場ですらウォータースポーツを楽しまれるような活動性ですからメカニカルな負荷は全く問題なさそうですね。
もちろんレッドフラグなしです。
左肘の痛みを再現する動作を探します。
フライパンを左手で振ってもらうと左肘外側に6点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の疼痛が再現されることを確認しました。
えっ、フライパン?…と思われた方も多いでしょうね。
たしかに通常の整形外科診察室ではまず見ることがないグッズです。
当クリニックの診察室には他にもダイニングチェアや私が使わなくなった革ベルト、塩ビのパイプ、広口瓶などをおいています。
これは症状の再現や日常生活指導、エクササイズ指導などで使うために用意しているものです。
単純X線検査では軽度のストレートネックを認めますが、変性などはほとんどありません。
姿勢は普通程度ですが、良いとはいえません。
姿勢を矯正して保持すること1分。
さっきのフライパンふってみましょうか
少し良くなったみたい…
何が悪そうですか?
姿勢ですか…恥ずかしくて人に言えない…
スポーツインストラクターとして指導しておられるのでここだけの話にしておきましょう。
頚椎の動きには全く問題なく、伸展も大変しなやか。さすがです!
しっかりと伸展すること5回。
もう一回振ってみましょうか
フライパンを振りながら…少し向きを変えたり、あれこれと試して、
さっきみたいな痛いという感じじゃなくて、痛いというよりなんかじぐじぐする感じみたいな…ちょっと痛み方が違います
(RET+EXT w/op self 5回、エンドレンジを意識して B 左肘外側痛 2点)
さらに5回、応援しながらしっかりと負荷をかけて伸展すること5回。
さあもう一回振ってみましょうか
フライパンを振りながら…少し向きを変えたり、あれこれと試してから、
痛くないです…
ゼロですか?
いろいろ試しながら、
…いや肘を伸ばすと少しは痛いかな…
(RET+EXT w/op self 5回、エンドレンジを意識して B 左肘外側痛 0.5点)
さすがにスポーツインストラクターで飲み込みが早く、非常にきれいな動きをされるので、もう一セット追加しましたが、0.5点からの変化はありません。
ここからさらにステップアップして負荷を上げる手もあるのですが、まだメカニカルな評価を開始したばかりで、続けてみないとこれだけで十分なのかどうかはわかりません。できるだけ場所を選ばない簡単な宿題で、一人で出来る事だけにとどめます。とりあえず初回はここまでとしてエクササイズの注意点などご説明して初回の評価を終了しました。
マッケンジー法ではセラピストが手を貸す手技もあります。しかし、セラピストによる手技を積極的に使う時には、そこで負荷を上げる理由がはっきりしていなくてはなりません。それはむやみに負荷を上げると症状を悪くする危険性があるだけでなく、手を貸すことによって「治してもらう」という依存心を作ってしまいかねないからです。マッケンジー法では痛みなどの症状の改善を目指していることはもちろんですが、患者さんの医療者に対する依存を作らない自立支援が重要だと考えています。