9ヶ月ほど続いている右肘の痛み…右肘の外側・内側上顆のあたりに痛みがあります
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右肩周りの慢性の痛みに右肘の痛みが加わったという40代女性のお話です。
音楽の教員をしておられ、5年ほど前から右肩周りの痛みを覚えるようになり、あれこれと治療を受けてきたそうで、鍼治療を受けるためになんと関東まで出かけたこともあるそうです。
昨年8月ころ、右肘の外側と内側の2箇所が痛くなり、ある整形外科の病院にかかり、首と右肘のレントゲンを撮ってもらい、肘は異常なく、首からだろうといわれブロック注射を受けて1週間ほどはよかったそうです。その後、再び右肘の外側と内側が痛くなり、コップなど物を握ぎって持ち上げる動作や、ズボンを上げるなど掴んで引き上げる動作に加え、音楽の指揮で手を振るなどの動作がしづらくなりました。
今回ネット検索で、たまたま当クリニックのマッケンジー法・症例ファイルの記事をご覧になり、受診してみようと思って来院しました。
問診では特にレッドフラグはありません。すでに有名な整形外科で肘の単純X線写真については評価されていますので頚椎だけを撮影し、メカニカルな評価が禁忌となるような異常所見が無いことを確認しました。単純X線写真の所見としてはいわゆるストレートネックが見られる程度です。
現在の痛みは、右肩全体のどことは言えない感じの痛みもありますが、よりはっきりしているのは右肘の外側と内側で、ちょうど上腕骨の外顆・内顆あたりとその遠位に触っても痛いような状態と押さえると8点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みがあり、この右肘の痛みをベースラインとして評価を続けます。
姿勢をみると、いつも生徒さんに姿勢を正すよう注意しておられるそうで、さすがに背筋がぴーんとしたいい姿勢……と思いきや、見ると頭だけ前に出た悪い姿勢になっています。
(Protruded head +)
この点をご説明し、姿勢を矯正保持すること1分。
さっきの右肘の痛かったところを確認してみましょうか
(すこし触りながら)んっ、あれっ…ちょっと良くなってるみたい…どうして?
なんか姿勢が怪しい感じですね
(姿勢矯正保持検査 B?)
まだ完全な青信号というほどの改善でではないのですが、頚椎が怪しいのは間違いなさそうです。
可動域検査では特に制限らしい制限はないのですが、頭を前に出す動きで右肩のよく感じる張ったような軽い痛みが再現されます。
もう一度、現在の右肘の状態をおうかがいし、右肘の内側・外側とも押さえるときの5点の痛みをベースラインにします。
単純X線検査の所見、可動域検査もあわせ、動かすことには問題ないと考えられましたので、まずは一度、しっかりと頚椎を伸展して少し負荷を加えてみます。気分が悪くないかなどモニタリングしつつ、さらに4回、しっかりと伸展してみます。
さっきの痛かったところを押してみましょうか
(少し探りながら)…さっきは触っただけでここって感じだったのが、探して強く押すと痛いくらいになってます
(RET+EXT w/op 5回 B)
もう一回、今の体操をやっても大丈夫ですか?
ええ、大丈夫です
メカニカルな負荷をかける検査は患者さんにもそれなりにストレスになることがあります。なので、さらに負荷が大きいと思われる検査を続ける時には、単に結果が出そうだからという医療者側の一方的な視点で続けるのではなく、患者さんの様子を常にモニタリングしながら慎重に続けます。さらに5回、しっかりと伸展します…。
さあ、もう一回押してみましょう!
あれっ、痛くない…
ゼロですか?
ゼロです…なんで…
自宅でのエクササイズ、注意点、今後の計画などをご説明し、書類に署名をいただくとき、
…そういえば、さっき、問診票書いている時に痛かったのが痛くなくなってます!
ちょっとした動作で良くなったことが確認できますね。
本当にネットで(当クリニックの記事を)読んだ通り…魔法みたい…
でも、誇大広告はなさらないようにお願い致します
症状が良くなり喜んでいただけるのは大変嬉しいことなのですが、たまたま速やかに症状の改善するタイプ(Derangement)であったのでいい反応が出ただけだという事を念押ししてご説明しておきます。
みなさんが同じようにその場で良くなるわけではないことはこれまでもご紹介してきましたが、そのような場合にも評価の結果、反応によって次にどうするかを決めていく……ゴールまでの道のりは様々ですが、行くべき道を見失わない事もマッケンジー法の優れた点ではないでしょうか。