痛みがあるとき、運動はしない方が良いのでしょうか?
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右膝痛と右鼡径部痛(太ももの付け根の痛み)があって来院された60代女性のお話をご紹介します。
だいぶ前のある時、急に右鼡径部が痛くなったことがあり、胃腸科、整形外科、婦人科など様々な診療科の病院にかかりました。婦人科では子宮筋腫のみ指摘されましたが、他の病院も含め、いずれも異常なしと言われていたそうです。
その後、カーブスをやるようになって一時良くなっていました。
介護職をやめた頃に歩きすぎて右膝が痛くなったことがありますが、お近くの整形外科の病院でヒアルロン酸を3ヶ月ほど右膝に注射してもらって良くなったようです。ただ、いずれまた悪くなるだろうと宣告されたそうで、今回、言われた通りまた右膝が痛くなりました。
さて、先週の金曜日に畑の間引き作業を頑張った翌日の土曜日から右鼠径部の痛みと右膝痛が再発しました。
友人からすすめられ昨日当院を受診しようと思っていたそうですが、午前中にベビーリーフを収穫する作業をしていて、昼には鼠径部も膝もだいぶ良くなっていたため受診をやめたそうです。ところが、今朝になってみるとまた痛みがあり来院されました。
単純X線検査では腰椎の変形は認めますが不安定性はありません。
現在の症状を再度確認し、右膝内顆部の圧痛と歩行時痛3点(考えうる最大の痛みが10点満点として)、右鼠径部違和感をベースラインとして評価を開始します。
姿勢は悪いのですが、姿勢は以前から気になっていたようで、姿勢矯正の下着をつけるようになって現在は以前よりだいぶ良くなったとのことです。以前は相当悪かったのでしょうね。
姿勢を矯正して保持してみます。この腰を伸ばす動作の途中、腰の上の方に痛みがありましたが、保持しているうちに軽快しました。
1分ほど経過したころ、右膝の押すと痛かった所をもう一度押してみると、先ほどは3点だった痛みが1点に下がっています。
しかし、立ち上がって歩いていただくと、右膝痛3点は最初と変わりません。
この姿勢矯正に対する反応から、さらに伸展の評価を続けてみます。
机に収納した椅子の背もたれに手をかけて、まずは一回しっかりと腰を反らしてもらい、特に問題のない事を確認します。
それから続けて同様にしっかりと全部で5回の伸展を行ってから歩いていただきます。
膝の痛みはどうです?
だいぶいいです、1点かな……
先ほどの歩くときに感じていた右膝の痛みが軽くなっています。
(EIS 5回 B 歩行時痛 3→1点)
さらに5回、同様に腰をしっかりと伸ばしていただいた後、歩いていただくと、まだゼロにはなっていませんが、さらに痛みが軽くなっています。
(EIS 5回 B 歩行時痛 1→0.5点)
そして、もう一つの症状であった鼠径部の違和感はすでに消失しています。
どこが悪いと感じました?
腰ですか?
ですね!いま腰しか動かしてませんもんね!
実は痛いところが膝であっても、腰に関係がある場合が多いことはすでに過去の症例ファイルでご紹介しているのですが、患者さんにとって痛いのはやはり「膝」であって「腰」ではないため、この関係がすんなりと理解できる方は多くありません。
そこで、評価を繰り返しながら、どこをどう動かして、その結果症状がどうなったのかという反応について患者さんと一緒に確認作業を繰り返して理解を深めていきます。
さらに5回、腰をしっかりと伸ばしていただいた後、歩いていただきましたが、もうこれ以上の改善はありません。
(EIS 5回 NE 歩行時痛 0.5点)
姿勢、座り方、エクササイズなどご説明して初回はここまでとしました。
カーブスはやらないほうがいいでしょうか?
私だったらやりたいんだったらやると思いますよ。もしやっていて痛くなったらどうしたらいいと思いますか?
その体操ですか?
その通りです!それさえ知っていれば怖くないですよね!
このようなご質問を受ける事がよくあります。
今回の患者さんについてはマッケンジー法を知る以前の私だったら「痛くない程度になら……」とか「痛みが良くなるまで控えたほうが……」などと答えていたかもしれません。
現在は患者さんがやりたいという事があれば、よほど医学的に危険と判断されること以外は「私だったらやりたいと思えばやると思います」とお答えすることが多いように思います。
確かに、やりたい何かをやってみて症状が悪くなる事があるかもしれませんが、実際には影響がない事もあります。つまり、やってみないと分からないのです。
そしてマッケンジー法の要とも言える患者教育において、悪くならないようにするにはどのようなことに注意したらよいか、あるいは悪くなったらどうしたらよいかなど、自らの行動について適切な「自己管理」ができるように導いていきます。