木材が当たった?……アキレス腱付着部の痛み
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左踵(かかと)の痛みで来院された50代の女性のお話です。
生活介助、支援などのお仕事で、塩作りで日常的に燃料の木材を運ぶことが多いようです。木材と行っても廃材ですから、その大きさは様々。
大きなものは数キロ、あるいはそれ以上で二人で運ぶこともあります。
具体的なお仕事の様子を伺ったところ、出来た塩の小さなゴミ取りをする作業は何時間も座ったままで深く前かがみになってするそうです。塩の中のゴミ取りって想像しただけでも大変そうですね。
さて、1週間ほど前、いつの間にか左踵が痛くなってきました。バタバタと動きまわるので気づかないうちに材木が当たったかなとも思ったのですが、はっきりした心当たりがありません。その数日後に買い物で動き回ってから痛みが強くなり、だんだん悪くなってきたため来院しました。
痛むのは左踵の後ろの方で、アキレス腱の付着部よりやや遠位、踵骨(かかとの骨)の後ろあたりになります。
体重を載せると痛く、動き回ると増悪します。逆に座って体重が載っていないとなんともありません。
単純X線写真では、アキレス腱付着部に小さな骨化を認めます。
いわゆるアキレス腱付着部症のようにもみえる踵の症状があるとき、どこから診察するのでしょうか…。
過去の症例ファイルでもご紹介してきたので、ピンときた方は私のブログ通ですね!
そう、まずは腰です!
メカニカルな評価が禁忌となるようなレッドフラグはありません。
左踵の荷重時痛(体重を載せたときの痛み)は6点(考えうる最大の痛みが10点満点として)で、これをベースラインに評価を開始します。
まず姿勢のチェックです。予想通り姿勢は悪いです。
姿勢を矯正して保持すること1分。
もう一回、歩いてみましょうか
さっきより痛くないですね…
少し痛みが軽くなっています。
(姿勢矯正保持検査 B 歩行時左踵痛 6→4点)
腰椎の可動域検査では屈曲(前かがみ)制限はなく、伸展(腰を反らす)は中等度制限があり、伸展の際に両大腿後面に軽い痛みを覚えます。
さて、どの方向から診ていきましょうか……お仕事の様子とここまでの診察所見から伸展を選んでみます。
まずはうつ伏せになっていただき、腰を反らす体操を10回。日々材木運びで鍛えておられるからでしょうか、50代ですが難なくこなされました!
さっきみたいに歩いて見ましょう
また少し痛みが軽くなってます…3点くらい
(反復EIL 10回 B 歩行時痛 3点)
もう10回……今度はさほど変化ありません。
(反復EIL 10回 NE 歩行時痛 3点)
立位での伸展も行いましたが、これ以上の変化はありません。
ここまでの結果をふまえて宿題は姿勢と伸展エクササイズにしました。
(姿勢指導、EIL 10回/セット、1日3セット 朝1回・夕2回、EIS日中にできるだけ)
そして2日後……。
昨日はまだ少し痛い感じがあったそうですが、今日は違和感程度で痛みはありません。
エクササイズはというと……朝は時間的に余裕がなく、夜に2セットしか出来ませんでした。
しかし、腰はきついそうで、それなりに頑張っていたことがわかります。
実は同じ職場にやはり踵の痛みで当クリニックにかかり、同じく腰椎の伸展エクササイズで症状が改善している同僚がいらっしゃるようで、その方から「腰の運動はきついよね〜!」と言われたそうです。
きついことも、仲間がいると乗り越えられる……そんな感じでしょうか。
同じ治療法でがんばっている仲間……もちろんマッケンジー法に限らず、おそらく全ての治療法に共通する治療を成功させるための一つの要因かもしれません。