1週間ほど前からきっかけもなく両手が痺れて夜間痛もあるようです
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回ご紹介するのは両手のシビレを主訴に来院された50代後半の男性です。
実は以前、10年来の両肩痛で来院されたことがありました。ご本人は五十肩と信じておられたのですが、マッケンジー法で評価した結果は頚椎のエクササイズで比較的早期に症状が良くなるタイプ(頚椎 dereangement, DP EXT)でした。
経過は良好で、その後、両肩の痛みで目が覚めることは無くなっているようです。この両肩についての治療経過についてはcase_28 両肩痛をご覧下さい。
さて、今回は1週間ほど前から特に誘因なく両手が痺れるようになりました。
しびれは良かったり悪かったりで、どんなときに悪いというのははっきりしないようです。
ただ、夜間にしびれが強くて目が覚めることがあります。
しびれの範囲は両手掌から指先まで手のひら全面ですが、現在は左が強く、診察の時点でもジンジンと痺れています。
夜間に強くなる手のしびれ……手根管症候群という病名が頭に浮かんだ方もあるかもしれません。
でも、しびれの範囲は親指から小指まで手全体で手根管症候群の症状とは合いません。
しかもしびれは良かったり悪かったりなのですが、その理由ははっきりしません。
この症状に波があるところ、以前、両肩の痛みが頚椎のエクササイズで軽快したあたりからピンと来ましたか?
症状は両手なのですが、やはり頚椎からしっかりと診察してみたいところです。
すでによく知っている方なので、とりあえず最近のエクササイズの実施状況をお伺いしてみたところ、両肩の痛みが良くなってしまったので、あまりやっていないと正直に答えていただきました。
今回しびれがでてからエクササイズはやっていないとのこと……ってことは全然していない感じですね。
そこで、頚椎のエクササイズを覚えているかやって見せてもらいます。
この方に処方したエクササイズは顎をグッと後ろに引いて伸展するエクササイズで、少し自分で負荷を加えるやり方でした。
(RET w/op self + EXT w/op self)
やり方を観察すると、1)顎の引き方がゆるく、2)しっかりと引いた位置を決めないまま伸展に移行して、3)しっかり最後まで伸展しきっていない、など、いくつかのポイントが抜けていることがわかりました。
そこで、これらのポイントを一つずつご説明しながら、同じエクササイズの練習をしていただきます。
アゴを後ろに押す動作を意識しすぎて、うまく顔が後ろに引けていないようなので、力の抜き方などを鏡を見て自分の首の動きを観察しながら練習してもらい、しっかりと頚椎のエクササイズを5回……
しびれはどうです?
少し軽いですね……
さらに5回、一緒にしっかりと最終域を意識して動かしてみます。
しびれは?
……しびれは……今無いです!
(RET+EXT w/op エンドレンジを意識して10回 abolish B)
ご本人としては、あれっ、今回は両手のしびれなのに、やることは同じ?という感じでまだ腑に落ちていません。
肩であれ、肘であれ、手であれ上肢の神経は首から繋がっているので首が関係していることは少なくないんですよ、とご説明します。
ただ、一見するとちゃんとやっていそうに見えるエクササイズも、ちょっとしたやり方の違いで全く効果が出ないことはよくあります。
もしこの方が両肩の症状が良くなった後も頚椎のエクササイズを続けていたとしたら、ひょっとしたら今回の両手の症状は無かったかも知れません。しかし、やり方をチェックしてみると、やはり若干改善するべき所はありましたね。このように、エクササイズの効果を出すために、改善すべき点を見つけて、それをしっかりと覚えてもらい自己管理できるようお手伝いする。これもまたマッケンジー法の考え方なのです。