重い荷物を抱えて動かしたときに左肩が痛くなりました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左肩の痛みで来院された50代男性のお話です。
以前からマッケンジー法・症例ファイルをご覧いただいている皆さんには、もう当たり前になったでしょうか。
もちろん肩関節であってもマッケンジー法により評価します。
この方は長距トラック運転手で、一日10時間は運転するようです。1週間ほど前に15kgほどのものを抱えて左後方に回した時に急に左肩が痛くなったというきっかけがはっきりしていて、肩腱板損傷など外傷の急性期である可能性もあります。
外傷と言ってもレベルは様々ですから、注意深く医療面接を行い、明らかな腫脹や熱感、不安定性などが無く、メカニカルな評価をしても問題ないと判断される場合は、マッケンジー法で評価を続けることにしています。もちろん骨折などのメカニカルな評価が禁忌と考えられる外傷が強く疑われる場合は、単純X線などの他の追加検査を行ってから方針を再度決定します。
このような外傷を思わせる病歴が聴取された場合、もし可能であれば、やはり最低でも単純X線写真は確認しておきます。
幸い左肩の単純X線写真には骨折などの異常所見はありません。
明らかなレッドフラグはありませんでしたので、マッケンジー法による評価を続けます。
姿勢は明らかに悪く、頭が前に出た姿勢です。
(Protruded head+)
姿勢矯正保持検査では特に変化は見られません。
自動運動で左肩外旋20°で4点、前方挙上1点のベースラインが確認できました。そして……、左肩ではなく、頚椎の評価を行います。
可動域検査では伸展がおよそ45°と重度に制限されています。
頭を後方に引いてから伸展させる頚椎の運動を5回行い、ベースラインの確認をします。
さっきみたいに肩を動かしてみましょうか
…さっきより、痛くないですね…
左肩の外旋時の疼痛がやわらいでいます。
(RET+EXT 5回 4→2.5点)
頚椎の動きで少し反応がありましたので、さらに続けます。
顎を後方に引いてご自分でさらに押し込んで負荷を上げ、そこから伸展をすること5回。
あまり変わらないかな…
左肩外旋時の疼痛は先ほどと同じ2.5点とそれ以上の変化は無いようです。
さらに頚椎の評価を続けても良いのですが、今回は病歴から左肩の問題がより疑われるので、ここで頚椎の評価をやめて左肩の評価に移ります。
もう一度、荷物の持ち上げで痛みの起こった瞬間をイメージします。屈曲(前方挙上)から外転、外旋ですね。
というわけで、その逆に行ってみることにします。
内旋内転した左肩を伸展してみます。
まずは1回。特に痛みはないようです。
10回、しっかりとエンドレンジを意識して伸展していただきます。
そしてベースラインのチェックをします。
左肩を痛い方に動かしてみましょうか
さっきより動かしやすいです!
外旋は、先程痛かった20°では痛みがなく、40°の外旋ができるようになり、しかも疼痛は1点に軽減しました。
さらにしっかりと10回続けていただき、再度ベースラインのチェックをすると外旋50°で1点に。
姿勢の注意点、エクササイズの方法など再度ご説明し、初回評価を終了します。
そして2日後。
痛みはほとんどなく、可動域は左右差ありません。
ただ、自宅でだらりとした姿勢でいた後などはやはり左肩の痛みが少し増すようで、姿勢を意識しているようです。
もし今回の診察するにあたり、最初から左肩の評価をしていたら、頚椎の評価で得られた4-2.5=1.5の改善分はどうなっていたでしょうか?
ひょっとしたらそれも関係ないくらいに肩のエクササイズで良くなっていた可能性はありますが、再診の際にご本人から「姿勢が悪いと痛みが強くなる」という情報が得られていますので、やはり頚椎ないし姿勢の影響はありそうです。
長距離トラック運転手の患者さんは初めてだと思いますが、実はこの方、口コミで受診されました。
そのお薦めいただいた方は、こちらでは薬などあまり出さずに色々と体操をさせられて治療してもらえるといった診察の様子を事細かに話されたようで、診察を受けた感想をお伺いしたら、本当にその通りだったと喜んでいただけたようです。
色んな所で様々なご職業の方々の接点があるのは当たり前なのですが、地元の方々の間で当院の話題がでた様子を想像しながら、少しずつマッケンジー法が広まっているようで、とても嬉しく思えました。