背部痛と胸痛、心電図や各種画像診断などでは異常ありませんでした
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は背部痛と時に胸が痛くなるという50代女性のお話です。
職業は美容師です。いつからかはっきりとは覚えておられませんが、少なくとも数年来の背部痛があります。1年ほど前から時に胸痛も覚える様になり、内科、整形外科などかかって心電図や各種画像診断など受けましたが、いずれも異常なし。マッサージにこの2ヶ月ほど週一回通っていますが、その時は症状は軽くなるものの、次に行くまでには元通りの繰り返しです。前回のマッサージのときに胸が痛くなり、その痛みが続いている状態で来院しました。お話を伺う限りメカニカルな評価の禁忌となるようなレッドフラグはありません。
単純X線検査では軽度の変性を認めます。
姿勢は非常に悪く、かなりの猫背です。
今現在は何点とは表現しにくい症状で、とりあえずこの漠然とした背部痛・胸痛をベースラインとして検査を進めます。
姿勢矯正保持を行ってみると、少し良い印象です。
続いてだらりとした姿勢と過矯正気味の姿勢を繰り返す動作を10回。
さらに良い印象です。
(slouch-overcorrect、以下SOC 10回 B?)
初回の評価はここまでとして、姿勢とこのSOCのエクササイズで経過観察をしてみることにします。
えっ?……これでおしまい?……と思われた方も多いのではないでしょうか。
初診の際にどこまでやるかは様々な要素を考えて決めます。
一つには、今日の状態があまりはっきりとした症状がベースラインとして取りにくいこと、さらにこの方の最終的な姿を想像したときに、徹底した姿勢指導が一番のように感じたので、ここまでとしました。
1週間後。
その週に起こった症状の変化などお伺いします。
ジムでうつ伏せのストレッチをしてから例の胸痛がでて、その後しばらく胸痛が悪い状態が続きました。
大変熱心な方で、SOC繰り返しは比較的よくできているようです。
最初の頃、背中の張ったような感じが少しでたようですが、現在は無くなっています。
このエクササイズを始めた後にその関連する部位に張ったようなこり感がでることがしばしばありますが、これは逆にエクササイズが良くできているという事を表しているとも言えます。
この手の痛みは早い時期によくなる事を事前に伝えておりますので、特に不安なくエクササイズを続けられました。
しかし、この時点で、左肩甲骨から肩の奥に5点の鈍痛があるとのこと。
頚椎の可動域をみると伸展制限が重度で後頚部痛がありほとんど上が向けません。
ゆっくりと、丁寧に首を伸展方向に動かすエクササイズを5回行ったところ、鈍痛はすこし重だるいくらいに改善しました。
(RET+EXT w/op 5回 B)
さらに5回……
今は鈍痛もないです!
(RET+EXT w/op 5回 abolish B)
宿題がちょっぴり増えることについてどう思われるかおたずねしたところ、やる気満々です。
本当はエクササイズの種類は増やしたくないのですが、このような新たな宿題を欲しがるほど自分の力で早く良くなりたいという熱心な方にはちょっと加えてみます。
宿題はこれまでのSOC反復エクササイズに加え、頚椎のエクササイズも一日5セットほどになりました。
初診より9日目の朝のこと。
SOCしているときに急に胸が痛くなりました。
しかし、それをどう感じたかお伺いしてみると、エクササイズは自分としては関係ないように思えたらしく、診察の時点では軽減しています。
念のためSOCを繰り返し10回をやってみましたが、やはり良い感じで、継続することにします。
ちょっと長い経過なので途中飛ばしますね。
初診から4週。姿勢はだいぶ良くなっているのが分かります。ご本人も良い姿勢が楽だと気づいてきたとのこと。
初診から5週間。胸の痛みは軽くなった状態が続いています。
姿勢もさらに改善しているのがわかります。
頚椎の伸展運動もチェックしてみると、まだ制限がありますが、後頚部痛もなく角度がさらに改善しています。
そして初診より7週間。
前々回に受診された時に胸痛があった以来、胸痛はありませんでした。
ご自分の感覚としては治り具合としては9割は達成できているようです。
水泳でも肩が回しやすく、とても泳ぎやすくなったんですよ!それに、人からも姿勢が良くなったと言われるんです!
とニコニコ顔で話されます。
不安なくやりたいことができている状態で、もう卒業して良さそうですね。
今日で卒業にしましょう!
でもなんか寂しい……
大丈夫ですよ、もう一人で!
また何かあったらお願いします!
今回、他の整形外科や内科などで心電図なども異常なしと言われていた背部痛、胸痛。
マッケンジー法を知らない頃の自分でしたら、とても困っていた症例だったと思います。
このような生理検査や画像診断では検出できないような胸痛など、診断に困るような症状についても一貫したアプローチで解決できることもあるのがマッケンジー法の素晴らしさの一つと考えています。