case_40 右下腿痛

最近フルマラソンに向けて走り始めて起こってきた右下腿痛

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右脛(スネ)の痛みを主訴に来院された30代女性の患者さんです。

えっ?…スネ……ですか?と思われた方もいらっしゃるかも知れませんので、ご説明を加えさせていただきますと、マッケンジー法は一般に知られているより守備範囲は広く、腰椎・頚椎の問題だけでなく、肩こりはもちろんのこと、肘、手、指、股、膝、足くび、足趾まで脊椎から四肢の痛み・しびれなどの症状を評価します。

マラソン大会に向けて3週ほど前から1日2kmほどからスタートし、徐々に距離をのばしていき、昨日までは平日でも5kmほど走っていたとてもお元気な女性です。しかし、昨日は2kmほど走ったあたりで、右スネのあたりが痛くなり歩いて帰ったようです。痛くなった部位をよくお伺いすると、正確には右下腿近位前外側、前脛骨筋の近位1/3あたりになります。今日になってもしゃがみ込みなど痛くて出来ないため来院されました。

お仕事では車を運転して移動する時間が長く、トータルで一日5時間くらいは運転しておられます。

念のため右下腿の単純X線写真も確認しますが、特に異常所見はありません。

レッドフラグもなく、メカニカルな評価を開始します……もちろん腰からですね!

可動域検査をしていると、腰を右に動かしたとき、腰を痛がられました。

(左SG produce 腰痛)

腰痛についてお伺いしてみたところ、以前から腰痛ももっているけれど、今回は特に腰は痛くなかったようです。

さらにしゃがみ込みで5点の右下腿外側痛を生じることが再現性のあるベースラインとしてとれました。これまでの情報から伸展方向からの評価でよいでしょう。

もともと1日5kmほど走っていたようなお元気でお若い方ですので、臥位での腰椎伸展から開始します。

うつぶせに寝た状態では特に変化はありません。

さて、手のつき方などをご説明し、伸展運動を10回していただきます。
最初は腰が痛かったようですが、徐々に痛みは気にならなくなっていきました。

再び立っていただきます。

佛坂
佛坂

もう一回しゃがんでみましょう

A子さん
A子さん

さっきより、痛くないです。3点くらい

腰を横に動かすときの疼痛を確認すると、こちらも7点から3-4点に軽減しています。

(EIL 10回 しゃがみ込み 右下腿痛 B 5 → 3点、左SG 腰痛 B 7 → 3-4点)

お若いのでさらに負荷をあげて腹臥位の伸展を10回追加してみます。

今度は右下腿の疼痛は2点とわずかな改善にとどまりましたが、腰を横に動かしたときの痛みはほとんど気にならないレベルに改善しています。

(EIL w/sag 10回 B 3 → 1-2点、左SG B)

注意点などご説明して、エクササイズなどやるべき事を再確認し、初回の評価を終了しました。

さて、その翌日。

佛坂
佛坂

症状はどうですか?

A子さん
A子さん

とてもいいです!

と迷わず返事が返ってきました。

現在も少しだけ違和感は残っていますが、すでに疼痛が軽くなっていて、3kmほど走ってもなんともなかったようです。

エクササイズは数セットしかやっていませんが、もう治癒と言ってもよい状態ですね!

しかし、車を長時間運転されるお仕事のため、良くなった後も、朝夕のエクササイズは継続することをおすすめしました。

なかなか当たらない福岡マラソンの切符を手にしておられますので、これからも好きなだけ走って大会に臨んでいただきたいですね!

今回のお話、いかがでしたか?

部位や病歴からは前脛骨筋の疲労による疼痛のほか、疲労骨折などが思い浮かんだと思いますが、その評価の結果はまたしても「腰」のエクササイズで改善する痛みでしたね!もちろん鎮痛剤も使わず腰のエクササイズのみで1日で治癒して走る負荷を上げても症状が再発しなかったわけですから、筋肉痛や疲労骨折などの病態ではその説明ができないでしょう。

四肢の症状であっても脊椎から評価する……いつかそれがどの病院・治療院にかかっても当たり前の評価手順になるように今後も分かりやすい症例をご紹介していきたいと思います。