包丁を使っていると痛くなるという右上腕の痛み
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右肩から上腕の痛みで包丁が使えないという70代女性のお話をご紹介します。
1年ほど前、掃き掃除の後に右肩が痛くなって右腕が動かせなくなり、ある手術のできる病院にかかってMRI検査を受け、腱板断裂があり、手術をしないと治らないと言われたことがあります。
でも、手術はいやだったので、自分で頑張って動かす練習をして、そのうち右肩の痛みは良くなり現在は腕もあげられるようになっていると挙上して見せられます。腱板断裂後に見られる完全挙上ができない状態ではありますが、左右差なく、ご本人も挙上の程度に問題を感じていません。
さて、半年ほど前から、右腕のつけねあたりから上腕内側の痛みがあり、包丁を使っていると右上腕の痛みが強くなり包丁が使えなくなり困っているとのこと。そのような時は右肘をついて休憩すると少し軽快し、手を下げているとなんともありません。
日常生活では、退職後20年ほどになりますが、リクライニングの椅子にもたれてテレビをみるような生活を続けているようです。
このあたり、これまでご紹介してきた記事をご覧頂いた皆様にはピンとくるあたりでしょうか。
単純X線検査では頚椎に変性所見を認め、ややストレート。右肩関節には特に異常はありません。
評価を続けるにあたり問題になるようなレッドフラグはありません。
じっと座っているときの5点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の右上腕内側痛をベースラインとして評価を続けます。
座位姿勢は悪く、猫背で頭が前に出ています。
(Protruded head+)
姿勢を矯正して保持すること1分。症状をお伺いすると…
ありません
ゼロですか?
左手で右腕を触って確認しながら、
…です、今は感じませんね…
続けて頚椎の可動域検査をします。
伸展が重度制限されていて、右上腕に響くことが確認できました。
どうやら頚椎に関連した症状ということで間違いなさそうです。
さて、ここからどう攻めていくか……
伸展は重度の制限があり、右上腕に症状がでます。
まず、頭を後ろに引く動作をチェックし症状の増悪がないことを確認し、さらにご自分で押し込む力を加えた反復をやってみましたが、特に症状は良くも悪くもありません。
(RET w/op self 5回 NE)
今後の方向性が見えているときに安全性を確認する意味合いが強いので、症状の変化がなくてもあまり気にしません。
初日の課題として姿勢とエクササイズのご説明をし、初回評価を終了します。
そしてその翌日。
症状はいかがです?
だいぶ良いです!
と明るい答えが返ってきました!
どこがどう良くなった感じがしますか?
包丁が普通に使えました。昨日、先生に少し首の動かし方を習っただけなのに…
嬉しそうに答えられます。
でも、実はそれだけではなかったんです。リクライニングの椅子に腰掛けるときにだらりとならないように意識して腰掛けて、良い姿勢を意識していたようです。
エクササイズはというと、3回ほどしかしていないとのこと。やはり姿勢は強力ですね!
今現在も多少痛みはあるけれど、包丁を使っていても肘をついて休むこともなかったようで、ほとんど気にならないレベルになっているようです。
もし、また痛くなったらどうしますか?
またこうやって…
姿勢と頭を動かす動作をしながら答えられました。
そうですね!
今回の初診時におうかがいした一番の問題は包丁が使えないことだったので、ある意味問題はすでに解決していますね!
しかも、症状を良くするために、自分のやるべきことがとても良く納得できて前向きになっていると言われます。
一日にしてセルフマネジメントまでできている頭の柔らかさ。若さは実年齢ではない事を改めて感じることができました。