左膝の痛み、同じ動作でも痛くないときもあります
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左膝痛のある50代女性のお話です。
1週間前、お店の売出しで忙しく動き回っていたようですが、特にひねったりした覚えもないのに、午前中に左膝が痛くなったようです。
左膝を伸展するときに特に痛いようですが、同じ動作でも痛くないときもあります。
……ここがポイントの一つと気づかれたあなたは、もうすでにマッケンジー法通ですね!
単純X線写真ではごく軽度の変性所見のみです。
座っている時には左膝内側に3点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の疼痛があり、立ち上がる瞬間は5点に増悪します。
座面を高くして座位での姿勢矯正保持検査を行います。
今、膝の痛みどうです?
あらっ、今はあまりないみたい……
左膝内側痛はあまり感じないレベルに改善しています。
立ち上がっていただくと、先ほどは立ち上がり時に覚えた疼痛は5点だったものが4点くらいと、わずかな改善感が得られました。ただ、この程度の改善では本当に良いのか分かりませんので、さらに評価を進めます。
可動域検査では立位屈曲、右サイドグライド(腰を横に動かす)で左膝痛を生じますが、元に戻ると元通りです。(P-NW)
立っているときの4点の左膝内側痛を新たなベースラインとして評価を続けます。
立位のまま腰椎伸展を数回行うとわずかに左膝痛の改善感が得られました。
(EIS 5回 B 4 → 3点)
ここまで来るとおおよそ伸展方向でよい印象ですね。
臥位での伸展を負荷をしっかりかけて行い、再び立っていただきます。
歩いてみましょうか
あっ、普通に歩けます!
(EIL w/sag 10回 左膝痛 abolish 歩行時の跛行消失)
歩行時の跛行は無くなり、ご本人もビックリという表情です。
膝痛の原因は、またしても腰椎でしたね!
腰椎の伸展エクササイズなどご説明し、初回セッション終了です。
さて、その翌日……。
疼くことはなくなったけど、スッキリはしていないようです。
腕がこった感じがするくらいにエクササイズはばっちりやっていたようです。
それではどこにそのスッキリしない原因があるのか……。
やる回数に問題がないのなら、次にやり方を見てみます。
実際に家でやっていたエクササイズを目の前でやっていただき、チェックを行います。
しっかりご説明していたつもりでも、自己流になっている場合ややること自体を間違っていることは少なくないのです。
伸展エクササイズはおおよそ出来ているようですが、エンドレンジ(しっかりと最後までという感じです)が少し甘いことと腰を下げる負荷のかけ方のタイミングがやや早い事が見て取れました。
この2点を修正して再度5回、さらにより手を手前に手をついてより負荷を上げて5回……。
もう一回歩いてみましょうか
だいぶいいです!1点くらい
疼痛は3点から1点へと明らかに改善します。
立位での伸展についてもしっかりと最後までというところを再度確認。
初診から1週間ほどで日中はほとんど痛みを意識しなくなったようですが、夜間に痛みが出るようでしたので、さらに、眠前のエクササイズとエンドレンジをしっかり意識することなど再度ご説明します。
途中のフォローアップが数回ありましたが、おおむねマイナー修正とアドバイスだけでよい程度に徐々に症状は改善していきました。
そして、初診から2週間ほどしたころ、エンドレンジをしっかり意識してエクササイズをやりはじめて2日ほどした頃から、夜間の疼きも無くなったようです。
現在は周りの方々からも、あれほど膝を痛がっていたのに、注射も痛み止めもいらないくらいに良くなっているのはすごいと言われているとのこと。しかも膝のエクササイズやリハビリは何もせず、腰のエクササイズだけで改善しているわけですから驚き倍増ですね!
職場の人からどうしたらそんなに良くなるのか教えてと聞かれても、人それぞれやり方は違うようだと教えているとのことですから、マッケンジー法のコンセプトをよく理解していただいているようです。