二人の11歳男児、症状はともに踵(かかと)痛……経過が違う理由は?
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回はたまたま同日に受診した右踵痛と左踵痛のとてもよく似た症状の2人の少年が、異なった経過を辿ったので、どこに違いがあったのかを一緒に考えてみてください
【A君】
まずは2年ほど前からバスケットボールをしている11歳のA君。週に3回の練習で平日に1日2時間、土日はほぼ丸一日の練習です。学校でシャトルランをして、その時は問題なかったのですが、教室に帰る頃に右踵の痛みを覚えました。以後、足を着くときに右踵が痛い状況が4日ほど変わらないとのことで来院しました。
家では趣味としてソファか、ソファにもたれてゲームを確実に1時間以上はするようです。
右踵をついた時の5点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の疼痛をベースラインとして評価をスタートします。
今日は二人分で長いので途中割愛しますが、腹臥位での腰椎伸展10回で疼痛は4点に減少
(EIL 10回 B 右踵痛 5→4点)
さらに負荷をあげて10回追加し1点に減少しました。
(EIL w/sag 10回 B 右踵痛 4→1点)
これはマッケンジー法の分類では腰椎Derangementと呼ばれるタイプの腰椎に関連した踵痛と言えます。
姿勢とエクササイズの指導を行い、3日後……
まだ痛いようです。
椅子に座っている様子を観察していると、初診の時からそうだったのですが、両手を太ももの下に敷き込んで背を丸くして座る癖があるようです。
初診から翌日まで痛みはかなり良かったようなのですが、夕方にバスケットボールをしてから再び右踵痛が増悪したようです。
再び右足でケンケンしてもらい5点の疼痛が出ることを確認し、腰椎の伸展を行います。
身体が非常に柔らかく、通常の反らせ方では不十分と判断し、負荷をグッとあげて上半身が後ろに反るくらいまで負荷をあげて10回。
再びケンケンしてもらうと右踵痛はやはり疼痛は1点に激減します。
座位姿勢の大切さを再びご説明し、バスケットボールの前後、中休みでも伸展エクササイズをするように勧めました。
そして、5日後。もうすっかり良くなっています。
エクササイズの実施状況は自己採点で50点くらいとのこと。またちらりと両手を太ももの下に敷く動作がみられたため、今回付き添いのおばあちゃんに姿勢を良くすることの大切さをご説明しました。
【B君】
こちらも同じ11歳の少年です。2日前に100m走ってから左踵が痛くなりました。
非常に姿勢が悪く、日中は授業中も同様の背の丸まった姿勢で座りっぱなし、帰ってきてからもソファでゴロゴロとやはり背が丸まった状態で過ごしていると言います。
左踵をついた時の5点の疼痛をベースラインとして評価を開始します。
姿勢を矯正保持して1分ほど、立ってもらい左踵に体重を載せてもらうと、3-4点に軽減した感じがあるようです。
若くて元気なので一気に行きます。伸展20回で疼痛は2-3点に軽減しました。
(EIL 20回 → B 3-4 → 2-3点)
さらに負荷をあげて20回……
疼痛は1点にまで軽くなりました。
(EIL w/sag 20回 → B 2-3 → 1点)
姿勢とエクササイズの指導を行い、3日後……
全く痛みはありません!
さぞかしエクササイズをしっかりやった事だろうと思って聞いて見ると、初診当日に10回/セットで2セットだけ。翌日にはすっかりよくなっていました。
エクササイズの実施状況はさておき、座る姿勢がとてもキレイになっているのに気づいて尋ねたところ、学校でも座る姿勢を意識していたようで、家でも背筋を伸ばして座るようになり、お母さんから見ても「こんなに身長が高かったかしら……?」というほどの姿勢の変わりようだったようです。
さて、この同じ日に同じような踵の痛みがあって来院したA君とB君、二人とも11歳の少年、もちろん足底腱膜炎などではなく、腰椎に起因するある方向にメカニカルな負荷をかけると良い反応の得られるタイプ(腰椎Derangement)の症例でしたが、どこが二人の経過に違いをもたらしたのか……皆さんもお気づきでしょうか。
私は決め手は姿勢だったと考えます。
日常生活の中でエクササイズをどれだけやっても、それ以外の時間が圧倒的に長いのです。つまりそれ以外の時にどれだけ意識して姿勢をよく出来たのか。ここが今回のポイントだったのではないでしょうか。
以前にもご紹介したことがあるお話ですが、ある時、マッケンジー先生がラジオ番組でパーソナリティーに「あなたが患者さんにもし一つだけ伝えることがあるとすればなんでしょうか?」と質問されて、マッケンジー先生は「Posture!(姿勢です!)」と答えたのだそうです。姿勢がいかにパワフルなツールなのかを今回の2症例から多くの皆様にお伝えできれば幸いです。