左足をかばって歩いていたせいなのか、右膝が痛くなりました
今回ご紹介するのは50代男性、右膝痛の患者さんです。
右膝が痛くて来院されたのですが、10年来の腰痛もあります。2ヶ月ほど前に左足をくじいて、その左足をかばって歩いているうちに、だんだんと右膝が痛くなってきたと言われます。確かにケガをした足と反対側のどこかが痛くなるというのはよく経験されますね。
既往歴として、糖尿病、心臓病、肝臓移植を受けておられますが、マッケンジー法(MDT:Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)で体を動かして評価をするにあたりレッドフラグはありません。
右膝には腫脹・熱感などありません。右膝を屈曲・伸展(曲げ伸ばし)をみると、可動域は正常で、特に動かしたからといって痛みもありません。
右膝蓋骨(お皿の骨)内側遠位、関節裂隙(骨と骨の間)よりやや近位部に比較的局在する圧痛部が明確にあります。大腿骨内顆部の遠位端あたりでしょうか。
右膝の単純X線写真を確認しましたが異常はありません。
右膝内側の7点の圧痛をベースラインとして評価を開始します。
膝の症状ですからマッケンジー法でのルールは腰の評価からですね!
腰の可動域検査中、伸展(腰をそらす)を行った時、重度制限があり、と同時に右膝後面にビリッと来る疼痛を訴えられました。
もどったらその痛みは残っていません。
右膝内側の痛みが主訴でしたが、腰の伸展で右膝の後ろ側に痛みが走る……なんかまたまた腰が関連している予感がしてきましたね。
まずは診察台の上に仰向けになっていただき、膝を抱え込んでしばらく休んでいただきます。1分ほどして再びベッドの端に座っていただいて右膝の圧痛部を自分で再度確認していただくと、
あっ、痛みが軽くなってます
そのまま今度は座ったまましっかりと屈曲して自分で負荷をしっかりかけていただく動作を5回。
さっきの痛いところをもう一回押してみましょうか
痛くないです!
(FISitting 5回 abolish B)
驚いたような顔で答えられます。
座位での屈曲をメインに指導を行い、初回セッションを終了しました。
さて、その翌日。
もう痛みは全くありませんとニコニコ顔です。
エクササイズの実施状況についてお伺いしたところ、昨日から2時間おきにできたようで、以後、右膝の痛みは全く出なかったそうです。
そして、面白い報告が。
両足が地に着いている感じがはっきりわかるようになったんですよ!
その感じは大げさかもしれないけれど小学校以来かもしれないと思えるくらい久しぶりだそうで、とても嬉しそうにお話されます。
維持できていることが確認できるまでエクササイズを継続していただくことにして第2回目の診察を終了しました。
さて、数日後の第3回目……おやっ、少し表情が曇っているような……。
また痛みが前と同じくらいぶり返しています。
昨日前かがみの作業を数時間続けた後、右足を固いものに着くときに右膝内側にビリっとする痛みが出るようになりました。
最初劇的に良くなったものが、その後また悪くなる……こんな時にはどこに原因があるのか確認します。
お約束のエクササイズは比較的しっかりできていたようで、実際にやっていただくと、座った状態での屈曲はかなり柔なくなっているのがわかります。もちろんエンドレンジ(動かせるところいっぱい)まで動かせてる感じですね。
しかし、昨日は前かがみで長時間作業をした後に症状がでたとのことで、方向性が違っている可能性を考え、念のため再び屈曲・伸展をチェック。伸展で初診時にあった右膝に響く痛みは出ません。さらに伏臥位でpuppy position(うつ伏せで肘をついて上半身をすこし持ち上げた状態)を持続して様子を見ます。すると、30秒ほどして右膝にじわじわと痛みがでてきたため中止します。
う〜ん、やはり屈曲?
他に変わった運動などしておられないかと、よくお伺いすると、実は腰を伸ばすストレッチも家でやっていたそうです。
やるべきエクササイズを説明して安心していると、逆のストレッチをいつの間にかやってるパターンですね。
再び立位で右足を硬いものについたときの痛みベースライン確認後、座位での屈曲ベッドの端に浅めに座って脚をひろげて、さらにしっかりと腰椎を屈曲し、息を吐いてさらに深く曲げて起こす動作を5回。
痛みはどうですか?
全く痛くないです!
と、驚きの表情。
荷物運びのときにもよく痛くなるとのことで、おそらく重いものを抱える時にすこし腰が伸展位になっているのでは無いかと思われますので、抱え作業の前後でしっかりとメンテしていただくようにお話し、第3回目のセッションを終了しました。
症状が劇的に良くなった後に再び増悪したとき、その原因がどこにあるのか……。
その原因を探る際にも医療面接で丁寧にお話を伺うのがいかに大切なのかをお伝えできれば幸いです。