かかとの痛みは……まず腰椎の評価から
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左踵(かかと)の痛みで来院された30代の男性のお話です。
ご職業は病院勤務の看護師です。もともとマラソンなどで走ることには慣れています。受診の前日15時ころ、患者さんとナースシューズで50mほど走ったときに左踵に痛みを覚えましたが、特にひねったりしていないようです。
日常的にバイクに乗るようで、乗車時間は、1日に1時間程度、昼間は病棟勤務ですが座っていることが多い職場のようです。趣味はサーフィン、美しい海の近い糸島にぴったりですね。
しかし、この1週間は映画を毎日3時間ほど、ぐにょぐにょのクッションにだらしなく寝そべって一日に3時間ほど見ていました。
このあたりの病歴、これまで症例ファイルを読んでいただいている皆さんにはピンとくる方もいらっしゃるでしょうか。
さて、単純X線写真には特に異常を認めません。
受診する3時間ほど前にロキソニンを内服してきたそうで、診察時はほとんど痛みがありません。
普通に考えたら痛みが軽くなったのだから好ましい状態と思えるかもしれませんが、マッケンジー法では症状がメカニカルな評価によりどのように変化するのかをみますので、ある意味、難しい状態と言えます。
あえて左足の症状を強くするためにあれこれと負荷をかけます。指で強く押したくらいでは痛くないようなので、左足でかるくケンケンしてもらうと3点(考えうる最大の痛みが10点満点として)程度の痛みが出ましたので、これをベースラインとして評価開始。
レッドフラグはありません。
マッケンジー法では下肢の痛みなどの症状についての評価は……腰から!と答えたあなたはもうマッケンジー法通ですね!
うつぶせの状態ではもともと痛くない状態で、なんら変化はありません。
さて、病歴もあわせてまずは伸展の動きに対する評価をします。腹臥位(腹ばい)での伸展10回、立っていただき左踵でのケンケンしていただくと……おやっ、という表情。痛みはとお伺いすると1点に改善しています。
(EIL 10回 B ケンケン時の疼痛 3→1点)
お若いので、さらに負荷を上げての伸展を追加。
再び立っていただきケンケンしていただきます。
1点もないです!
今回は明らかに疼痛がさっきより下がっています。
(EIL手の下にタオルを入れて高くして B 10回 1点未満)
日中も比較的自由に動けるとのことで、エクササイズとして腹臥位での伸展をすることにしました。
マッケンジー法では患者さんの自立を目標としていますので、患者さんのやりたいことをあれこれと制限するのは最小限にしなくてはいけません。ソファについても、それがもし本当に楽しみだったら、あまり「それダメ!」的なことは言いません。この方はソファはあまりこだわりはなく、椅子での生活もできるとのことでしたので、椅子での座り方など指導を追加して初回セッションを終了しました。
そして、一週間後……。
症状についてお伺いしてみたところ、初診から3日後くらいには疼痛は完全に消失したようです。
エクササイズがどの程度できたかお伺いしたところ、一日5セットくらいできたと言われます。
しっかりエクササイズが出来る人は結果も出ますね!
バイクに乗る方なので、今後も同様の症状が再発しやすいとも考えられますので、エクササイズの習慣化などご説明して卒業といたしました。
今回のような踵の痛み。代表的な病名としては足底腱膜炎が挙げられるでしょうか。もちろんエクササイズに関連無く良くなったのかもしれませんが、その前後で痛みがガラリと変化するするところをみると、関係がないとは言えなさそうです。このように、踵の痛みであっても、腰に関連していることがあるということを今回のお話から皆様にお伝えできれば幸いです。