case_25 頚部痛・肩痛・指しびれ

頚部痛、右中指・環指指尖部しびれ、左肩痛と複数の症状があります

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は慢性の頚部痛、右中指・環指指尖部しびれ、左肩痛という複数の症状がある60代の女性です。

長いこと保育士のお仕事をしていましたが、現在は引退しています。お仕事柄、下向きの仕事であったためか、首が痛いことはよくありました。10年ほど前に首の痛みと肩こりで整形外科にかかったときにはMRI検査をしてもらい、頚椎にヘルニアがあると言われたようです。

年末ころから頚部痛が増悪し正月頃には横が向けない状態で、その状態は改善してはいるものの、いまだに首は痛いため来院されました。

単純X線検査では、頚椎の骨棘形成なども伴う後弯変形があります。伸展(後屈)の側面像では比較的良好な前弯が得られますので、基本的には動きは良さそうです。

じっとしているときには全く痛みません。

医療面接では特にレッドフラグはありません。

頚椎の可動域は屈曲・伸展、回旋など中等度の可動域制限があり、屈曲5点(考えうる最大の痛みが10点満点として)、伸展6-7点、左回旋8点、右回旋5点と、どの方向も比較的強い痛みを訴えられます。これだけ痛いと評価しやすいともいえます。

右中指・環指指尖部のしびれはジンジンする程度で比較的軽いのですが現在もあります。

左肩は可動域制限があり、前方挙上は130゜で10点、外転90゜10点とかなり強烈な痛みがあります。

以上を評価のためのベースラインとしました。

座位姿勢はものすごく悪い状態です。
家ではソファにもたれるような座り方でおられるようで、おおよそどんな姿勢になるか再現していただいたところ、大変なもたれかたで、頭が思いっきり前に倒れています。

しっかりと姿勢矯正を行い保持すると、右大腿外側に痛みを覚えられましたので、すこし腰の矯正をゆるめて右大腿外側痛の出ない程度に腰のカーブをゆるめて胸をはる程度の姿勢矯正として保持。
右大腿外側の痛みが出ていないかモニタリングしながら1分ほど……右中指・環指のしびれについておたずねすると……

A子さん
A子さん

しびれは……ないです!

佛坂
佛坂

…ってことは?

A子さん
A子さん

やっぱり姿勢ですか?

佛坂
佛坂

ですね!

続いて頭を引く動きを一度してみると、特に変わりはないようです。

(RET NE)

同じ動作を5回反復して、頚椎で一番痛かった動きの左回旋をしていただくと痛みは6点に減少しています。

(RRET 5回 B 左回旋 10→6点)

さらに5回、今度は自分の手を使って少し押し込みを加えてみます。まだまだ前後にあまり動いていません。6点と痛みの程度はあまり変わりないのですが、回旋角度がアップしている事が見て取れます。

(RRET w/over pressure 5回 B 左回旋 ROM↑)

さらに負荷をあげてしっかり伸展するところまで続けると、疼痛はさらに軽減します。

(RET+EXT 5回 B)

さらに、負荷をあげ伸展を繰り返して行うと……左右とも疼痛無く向けるようになりました!

(RET+EXT w/self over pressure 5回 B abolish 左右の回旋時の痛み)

本人もまだ半信半疑なのか、何度も左右を振り向いて確認して、

A子さん
A子さん

痛くありません!

さて、左肩がまだでしたね。

このまま姿勢を保った状態で左肩を外転していただくと……なんと、左肩外転130゜で疼痛は我慢できるレベルになっています!

おやっ、と思いますよね!
だって、評価開始時は90° で10点、ここまで姿勢矯正して頚椎しか評価していなかったはず。

そうなんです。肩の症状であっても姿勢矯正や頚椎の評価で良くなる場合は少なくないのです。

左肩についてはまだ完全には痛みが取れているわけではないのですが、まずはソファ使用しないで、ダイニングチェアで良い姿勢を意識した生活を送っていただくことと、頚椎のエクササイズなど指導し、初回診察を終了しました。

これまである整形外科にかかっていて、またそちらに行こうと思っていたところ、お知り合いの方とご主人からのすすめで来てみて良かったとニコニコ顔です。

理解力もある方なので、1週間後に次回のフォローアップを行うことにしました。

今回、頚部痛、右中指・環指指尖部しびれが消失するだけでなく、左肩痛までも一気に改善。やはり頚椎・上肢の症状についてはまずは頚椎を評価することの大切さをお伝えできれば幸いです。