case_21 右膝痛

立ち上がりがけに右膝に激痛が走り膝が動かせなくなりました

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は急に右膝が痛くなったという60代後半の女性のお話です。

えっ、右膝痛?

と思われた方も多いのではないでしょうか?

そうなんです。腰をそらす体操が腰痛のエクササイズとしてあまりにも有名になり、その後、そのシステムが理解されないまま名前が一人歩きしたため、本当のマッケンジー法があまり知られていません。

マッケンジー法では四肢の評価と治療も行います。

実はこの方、変形性膝関節症の患者さんで、さほど強い症状は無かったので投薬で経過観察中との申し送りを受け、数日前に初めてお会いした方です。

一週間後の再来予定だったのですが、朝、立ち上がりがけに右膝がグジュっとした後に激痛のため膝が動かせなくなったようです。お孫さんの剣道の竹刀にすがりながらかろうじて来院されました。

クリニックにたどり着くや、車椅子に座り込み、もうこれ以上無理という感じです。

お話からは変性した半月板などの嵌頓(かんとん)、インピンジ(挟まりこみ)のように思われます。マッケンジー法を知る前でしたら、局所麻酔の関節注射の準備を始める所でしょうか。しかし今の私のアプローチは違います。

自分で脚を持ち上げるのも激痛で、看護師さん3人がかりでかろうじて診察台に仰向けになりました。

時間をかけて膝を伸ばしていきます。こわごわではありましたが何とか伸ばせました。ゆっくりと膝の可動域検査をすると、伸展は軽度制限、屈曲は90°ほどで痛みが強く、これ以上曲げられません。痛みは8点(考えうる最大の痛みが10点満点として)とかなりの高値。しかし、ゆっくりと膝を伸ばして元に戻ると痛みはないようです。

このような時、どちらの方向に動かしてみるかはやってみないと何とも言えない所もありますが、座っていて立ち上がりがけに発症したとの情報と、伸展制限は比較的軽度で疼痛も少なくやりやすい事から伸展から試します。

まずは仰臥位で出来る範囲で、疼痛が増悪しないか細かくモニタリングしながら進展してみます。

自動での伸展は問題なく出来る事を確認できました。

引き続き反復してみます。問題ないようですので、膝下に少しタオルを入れて更に膝伸展を繰り返します。

その後、仰臥位のまま、ご自分でゆっくりと膝を曲げていただくと…おっ、先ほどより曲がりが良くなってます。

痛みはまだあるようですが、先ほどの激痛ではないとのこと。いい感じですね!

ゆっくりと体を起こし診察台に座っていただき、さらに自動伸展の負荷を続けて行くと、だんだんと膝がしっかり伸ばせるようになって来ました。
もう曲げ伸ばしでは先ほどまでの激痛はありません。

ゆっくりと立って頂きます。

A子さん
A子さん

えっ!立てるかしら…

と、先ほどまであった激痛がまたあるのではとご不安です。

佛坂
佛坂

ゆっくりと自分のペースで良いので、立ってみましょう!

と勇気付けます。
靴をそっと履こうとした時、

A子さん
A子さん

あっ、自分で靴が履ける!

と驚きの様子。そう、先ほどまで足先すら動かせなかったんです。

ゆっくりと立ってみると…立てました!

そして竹刀につかまりながらゆっくりと歩いていただくと…歩けます!

今後の注意点やエクササイズなどご説明して診察終了しました。

この診察に立ち会った外来看護師も、絶対に麻酔か痛み止め思っていたと、初めての経験で驚きが隠せないようです。

もちろん今回のように上手く行く症例ばかりではない事は言うまでもありません。しかし、薬物を使う前にメカニカルな評価、すなわち色々と動かしてみてその症状がどうなるのか評価してみる価値がある…この症例からそんな事を皆さんに感じていただければ幸いです。