case_20 慢性腰痛

15年来の腰痛…「治らない」という暗示からの解放

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は建築業の40代男性、15年来の腰痛で来院されました。

ある看護師さんのご主人なんですが、私のマッケンジー法(MDT:Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による患者さんの評価の様子をみてきて、これは一度私に見てもらったほうが良いと考えて、ご主人に強く受診を勧めてもらい受診されました。

職員さんから信頼されるのが一番嬉しいかもしれません。

これから一緒に働く看護師さんのご主人だし、いい結果が出ればいいですがこればかりは評価してみないとなんとも言えませんね。

さて、まずはお話を伺うことから。

自営で時間にすると長いときで10時間労働。長時間の運転やあぐらをかくのは無理のようです。

ニコニコしておられるので、現在さほど痛くないのかと思いきや、5〜6点(考えうる最大の痛みが10点満点として)となかなかの腰痛。

特に悪くなったのは5~6年前にソファの背もたれにもたれて背伸びをしたときにグキッとなって激痛が走った時からで、以後、怖くて伸びることが出来なくなったようです。

腰痛の程度は朝起きたときが悪く、座位、歩行、同じ姿勢でいるときなども悪いようです。動いているときやお風呂上がりは多少良いのですが、これをしたら良くなるという改善動作はありません。

レッドフラグはありません。

座位姿勢は悪く猫背です。

姿勢を矯正して保持をし、30秒ほどでお伺いすると、痛みは2点に改善しています。

さらにバスタオルを固く巻いたものをサポートとして腰に当てて保持していただくと1点にまで改善します。

可動域検査では屈曲は中等度の制限、伸展は20゜と重度の制限があります。

立って頂くとまた2点に少し痛みが増えましたが、そこで立ったまま腰の伸展(EIS、Extension in Standing)をすると1点に改善します。

うつ伏せで肘をついたpuppy positionを持続してみます。
すると、すみやかに0.5点とさらに痛みは軽くなります。

次に、腹臥位での伸展運動(EIL、Extension in Lying) を10回していただき痛みの程度をおたずねすると…

B男さん
B男さん

ありません…

佛坂
佛坂

ゼロですか?

B男さん
B男さん

はい、ゼロです

間違いなく疼痛は消失しました!

その後、前屈をしていただくと、前屈のストレッチをしていなかったにもかかわらず、前屈も改善しています。これは伸展エクササイズが有効であることを示唆する所見でもあります。

ご本人に今回の診察を受けて感じた事をお話し頂きました。
以前、背伸びをしたときに激痛が走ってから伸びるのが怖くて避けていたようです。
こんなに腰をそらしても大丈夫だとわかり、なにか吹っ切れたようなスッキリとした表情です。

姿勢、エクササイズを指導し初回セッションを終了しました。

15年来の腰痛。もちろん、今回のように劇的に治ることばかりではありません。
過去の激痛を覚えた出来事のために、「こうしちゃいけない」とか「治らない」とかいう暗示にかかっている方は少なくありません。
その暗示から患者さんを解放する事もマッケンジー法では重要だと考えています。