「特に誘因なく」という言葉、本当でしょうか
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左脚が痛くて来院された60代女性のお話です。
昨日は特に変わったこともなく、なんら思い当たることも無いのですが左脚に痛みを覚えました。昨年、左股関節の手術を受けられたこともあり、手術との関連性がないかご心配とのことで、かかりつけの先生からご紹介いただきました。
実際にご本人にその日のことを伺ったところ、何も変わったことは無かったと言われます。
本当にそうなのでしょうか?
きっとどこかにヒントが隠されているはず……症状の出る直前まで何をしていたかを伺うと、美容室に行っていました。そこで、待ち時間が長く、30〜40分ほど美容室の低めのソファに腰掛けていたようです。その後に痛くなったことを思い出されました。
このあたりでマッケンジー法を学んでいる人はピンときます。
もちろん、私は整形外科医でもあり、ご本人の一番の心配事は股関節の術後の問題が無いかという事ですからレントゲン写真も撮影します。
股関節の術後の状態には特に問題はありません。
腰椎の側面像ですべり症(Meyerding分類 Grade II)を認めます。
こんなすべり症の人にメカニカルな評価をして良いのか?
そう思う方もいらっしゃるでしょうか。
そもそも歩いてお見えになり、痛いながらも立ち座りも出来ている方にご自分で動いてもらう評価するのはあまり危険とは思えません。
単純X線写真の所見はあくまでも参考にする程度で、よほどのレッドフラグ(たとえば骨が今にも折れそうな危険な状態など)でもなければ、それによってマッケンジー法の評価をするしないを決めるわけではないのです。
評価については先にお伺いした情報から腰椎の屈曲により生じた症状のように思われます。
座位をとっていただくと、やはり症状は増悪します。
続いてご自分でうつぶせになっていただきます。
これは最も軽い腰椎の伸展になります。
脚の痛みはいかがですか?
少し和らぎました…
そこで、胸に枕を抱えていただき少しだけ腰椎の伸展を強めてキープしていただきました。
約20分後に再度症状を伺ってみると……
今は…痛くないです!
疼痛は消失しています!
ここで立ち上がっていただくと、また痛みが戻って来ます。
まだ痛みはくすぶっているものの、今後の評価の方向性は見えてきました。
この方もそうだったのですが、ご紹介元のお手紙や他の人が記載した「特に誘因無く」という言葉には注意が必要です。医療関係者はよく使うのですが、本当に誘因がないのか、それをアクティブに聞き出そうとする医療面接における姿勢が問題解決には大切だと考えています。