case_12 急性腰痛症と禁煙

腰痛と喫煙との関係はあるのでしょうか

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は40代男性、急性の腰痛で来院された患者さんのお話です。

正月早々に腰に違和感を覚えていたとのことですが、数日後から体動困難なほどに腰痛が増悪し来院されました。
診察室に入って来られた時点で、真っ直ぐ立てません。
途中のお話を伺った状況などは今回割愛しますが、おおよそ腰椎の伸展(腰をそらす)で症状が改善しそうな状態と判断できました。

かろうじて診察台にうつ伏せに休んでいただき腰痛の程度をお伺いすると2点(考えうる最大の痛みが10点満点として)です。
マッケンジー法では動きとそれに対する反応を評価していきますので、このように体位を変えた後にはかならずベースラインチェックを行います。これを適当確認せずにすすめると何が良くなったのか悪くなったのかわからなくなるからです。

しばらく肘をついて軽く腰をそらした状態(子犬の座っている姿にたとえパピーポジション、puppy positionと言います)で姿勢を保持していただくと、疼痛は2点から1点に改善しました。
やはり伸展がよさそうです。

ここから皆さんもひょっとしたら存知かもしれない、マッケンジー法と言えばうつ伏せで寝そべって腰をそらす、あの体操をやってみます。
ここで注意していただきたいのは、この動かし方を選んだ理由はそちらの方向に動かすと良いことが予測されたからであって、全ての腰痛の患者さんに同じことをやっていただくわけではないというところです。この理由をよく理解されずに腰痛体操として腰をそらす体操を推奨するような記事も見かけるのですが、それは正しくありません。

うつ伏せで腰をそらす体操を反復10回していただくと……痛みは0.5点とさらに改善しました!

(EIL 10回 B)

起き上がり方など指導して注意して立っていただくと……まっすぐに立てました!

そして、あわせてもう一つ大切なことが。
実はこの方、愛煙家だったんです。

えっ、タバコと腰痛ってなんか関係あるの〜?……って思いますよね!

実は喫煙と椎間板の変性との関連性についてはすでにエビデンスがあるんです。
もちろん、今回の腰痛が椎間板が悪くなったからだと言っているわけではありません。
その可能性はありますから、十分な時間をかけて禁煙をおすすめします。

腰痛だけ良くなればそれで良いとは思いません。この方の将来を考えるとこの機会に完全禁煙を実現できれば、腰痛で受診した患者さんの健康寿命をも延ばすことができるかもしれないので、ウソのない関連することをお話して禁煙をおすすめします。

痛みから早く開放されたいとお見えになった患者さんの痛みをその場で激減させることが出来たのですから、その医者の言うことを聞いておこうと思いますよね!
このタイミングで禁煙に導くことは善だと思いますが、いかがですか?

最終的に生活習慣上の注意点の指導、座位姿勢指導、禁煙指導、エクササイズ指導など行い、鎮痛剤を差し上げて自宅へ帰ることができました。

***** 第1回フォロー *****

さて、1週間後、最初のフォローです。

伸展エクササイズは10回1セットで多いときで6回/日はできていたそうです。鎮痛剤は3日間ほど必要だったものの、以後飲んでいないそうです。車の乗り降りで1点程度の痛みを自覚する事があるくらいに著明に改善しています。

***** 第2回フォロー *****

エクササイズは相変わらず頑張っていただいていますが、まだ今回のエピソード以前ほどにはまだ戻っていないようです。
エクササイズはすこし負荷を上げる方法を説明し、さらに前かがみでの作業をした後には立ったまま腰をそらすエクササイズ(EIS)をしていただくようにご説明しました。

***** 第3回フォロー *****

さて発症から約1ヶ月が経ちました。現在、だらんと座った状態から腰をそらす動作で左臀部に1点未満の左臀部の違和感を感じる程度に改善しています。そして禁煙も続いています!

腰椎の可動域(ROM)をチェックすると前屈はもともと体が硬いようで、だいたい腰が痛くなる前と同じレベルになっています。
屈曲(前屈)時の疼痛はやはり1点未満で違和感程度。他、伸展、横の動きも全く症状は誘発されません。
念の為、診察台の上で思いっきり屈曲負荷をかけて見ましたが、症状は全く誘発されません。
つまり全方向に不安なくほぼ自由に動かせる状態になっています。

すでにエクササイズも習慣化していて、姿勢については自分のことだけでなく、職場の同僚を指導していると言われます。

マッケンジー法では必要な方には機能回復から再発予防の指導もするのですが、この方の場合、意識が非常に高く、すでに自己マネジメント完了していて卒業としました。

今回の腰痛を通じての感想をお話いただきましたが、タバコを辞められたのがとても嬉しいと目を輝かせておられるのが印象的でした。