一週間前に指先から手全体と前腕に広がってきたしびれ
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左手のしびれがある18歳女子学生さんのお話です。
1週間前からこれといったきっかけもなく無く左示指のしびれを自覚しました。それから徐々に前腕、手全体のしびれ感に拡大してきたため、近くの脳神経外科にかかり、頚椎の単純X線写真、頭部MRI検査を受けましたが、いずれも異常なしと言われました。しびれは持続していて、日常生活ではとくに改善・増悪することは思い当たりません。
頚椎X線写真はクリニック、病院により撮像の仕方が少し異なりますが、私はメカニカルな評価ができそうな方には全て正面、側面、屈曲(前屈)・伸展(後屈)の4方向は必ず確認するようにしています。それは屈曲・伸展によりメカニカルな負荷をかけるのに問題があるほどの不安定性など、動的な要素がないかということは情報として参考になるからです。
学生さんで、特に頚椎に負荷のかかるお仕事ではないですが、一日座りっぱなしで書字・読書などしている姿が浮かびます。趣味は意外なことにブレイクダンス。最近はさほど熱心にはしておらず、かるく気晴らし程度にやるくらいです。
いろいろとお話を伺ってみましたが、レッドフラグと呼ばれる危険な状態はありません。
座位姿勢をチェックすると、頭部が前方に突出した状態(Protruded head +)です。
単純X線写真では後弯変形(首の後ろ側に凸のカーブ)あり、伸展(上を向いた状態)での側面でやっとストレートになるほどの変形です。
頚椎可動域のチェックでは伸展制限が著明で、30°ほど。
他はそれなりに動かせます。
全ての方向に動かしてみましたが、右回旋(右向き)でしびれが増悪しました。神経の伸展試験では疼痛は誘発されませんがしびれが増悪します。
このようにはっきりとした自発痛や圧痛がもともと無い、あるいは姿勢・動作でも誘発されないタイプの方は評価の基準となる症状のベースラインがとりにくいのですが、とりあえず左前腕から手全体のしびれ、脱力感をベースラインにします。
まずは5回、顎を引くような動作を反復して頭の位置を後ろに引くことを繰り返してみます。
あまり変わりはないようです。
さらに5回、まだ変化はありません。
(RET 5回☓2セット NE)
今度は自分の手で少し押し込むやり方を指導して実施してみます。
まずは5回。少し顎を後ろに押し込めています。
さらに5回。頭が少し後ろに動いてきました。
(RET w/self op 5回☓2セット NE)
お若く頑張れそうなのでご本人に、
もう少しがんばれますか?
と声かけをしながら一緒に頑張ります。
今度はしっかり顎を後ろに押し込んでから上向きにも動かしてみます。
少し上がむけるようになってきましたが、とてもこわごわで、日常的に上を向くことはほとんどなさそうに見えます。
(RET w/self op + EXT 5回☓2セット NE)
2セット目している様子をよく観察していると、胸椎の動きが悪いことに気づきました。
ここで、胸椎をしっかりと負荷をかけて5回伸展してみます。
そして上を向いてみると……だいぶ上を向けてます!
(胸椎EXT w/op 5回 B ROM↑)
お若く、まだやれそうな状態なので、さらにしっかりと頚椎の伸展をしてみることにしました。
顎をしっかりと押し込んでから頚椎の伸展をできるだけ、5回続けてみます。
手の小指側のしびれが軽くなってます!
さらに上向きも、伸展80°とほぼ完全に上向きができるようになっています。
(RET w/self op + EXT 5回 しびれ軽減 B ROM↑)
左手の握力を確認するとまだ十分ではないですが力が入れやすくなったと本人も自覚しています。
頭の前に出た悪い姿勢、皆さんの周りにもきっと多くいらっしゃると思います。
デスクワーク、スマホ・タブレットの使いすぎなど原因は様々ですが、一種の生活習慣病とも言えるかもしれません。
それ自体が悪いということではないのですが、この姿勢を整えることで改善できる症状は少なくないのです。