case_10 両手のしびれ

両手のしびれとむくみ、作業をやめて休憩すると軽くなります

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は両手のしびれ、むくみ感で来院した40代女性のお話です。

両手のしびれとむくみ感のマッケンジー法?と思った方のために簡単にご説明します。

「マッケンジー法」を耳にしたことがあると言われる方でも、「腰痛に対するマッケンジー体操」(【重要】実はこのマッケンジー体操という表現は正式には使いませんので、このような表現の使われているサイトの情報はやや注意が必要です)のように腰痛に対するなんらかの体操法のような理解をしておられる方が多いと思います。

正確にはマッケンジー法は評価法であって体操法ではありません。
評価の際に使う一つのエクササイズが正しく理解されないまま広められてしまった結果、腰をそらす運動が独り歩きして、あたかもそれ自体がマッケンジー法であるかのような誤解を招いてしまったのです。

そして、実はマッケンジー法は脊椎だけではなく、肩、肘、手指、股、膝、足など四肢の評価も行います。

四肢の症状があっても、基本は脊柱から診察するのですが、それには理由があって、脊柱の評価によって四肢の症状が改善する人が少なくないのです。

縫い物などお仕事でも趣味でもなさるようで、何か作業をしているとしびれてくるけれど、休憩すると良くなる(「ふわーっと解ける」と表現されていました)ような感覚があるようです。両手のしびれは手指全体にあります。手根部(手の付け根あたり)を圧迫するとしびれが増悪し、特に左に顕著にあらわれます。また、別の診察法により手指のしびれの増悪が増悪することも確認でき、整形外科的には手根管症候群……と、言いたいところですが、少しお詳しい方なら、小指までしびれてるのが合いません。

しかし、手根部のはっきりとした診察所見があるのは間違いないので、頚椎と手根管の両方の問題の可能性ありと考えられます。

まずは単純X線検査で頚椎の動きも含めて評価を行います。頚椎の前弯が減弱したストレートネックぎみの側面像ですが、伸展位ではきちんとしなることができるようです。動かすことに問題になるほどの変形や不安定性はありません。

一般的な整形外科では次に頚椎MRIや伝導速度検査などを行い、病状にもよりますが、保存的治療で改善が得られない場合には、頚椎・手関節両方の病変があったとしても、まずは手根管から手術をという具合に話が進んでいくのではないでしょうか。

さて、ここからがマッケンジー法をやっているとアプローチが違います。

まずは姿勢のチェックを行います。普通に座っていただいた座位の状態で、両手指のむくんだような違和感(実際にはむくみは無いと判断できます)と耐え難いほどのしびれを10/10として2/10程度のしびれ感(これは疼痛評価スケールのVASやNRSとは異なるので、前後の比較が出来るように分数表示しているだけですのでご参考程度に)をベースラインとして評価を始めます。

この自然に座った状態を確認すると、やはり姿勢が悪いことがわかります。よくお伺いしてみると、かなり前から座っている時に腰が後ろの方に残ってしまっているような違和感を覚えていたようです。

姿勢を矯正して、しばらく保持していただくと……両手指の違和感が軽減している感じがすると言われます。

途中割愛しますが、頭が頚部の前に出た(マッケンジー法ではprotrusionと表現します)状態を姿勢矯正し、頭を後ろに引く反復運動をしていただくと、最初は頭の位置が全然前後に動かせていなかったのが、徐々に動きが出てきます。
上肢の痛みなどないことをモニタリングしながら、どんどん評価を進め、最終的に頭を引いた位置でさらに自分の手で頭を後方に押し込む力を加えた後、頚椎を後屈する運動(RET+EXT)までしっかりとできるようになりました。

その結果は……両手のむくみ感がなくなり、しびれは0/10、つまり症状がその場で解決してしまいました!

それではこの両手首の診察所見はどう考えたらよいのでしょうか?

軽い手根管症候群があるのかもしれません。

このように手根管症候群であるとわかっていても、頚椎のエクササイズにより症状が著明に軽減することがあるのは間違いないようです。他のMRIなどの高額な検査や内服薬による治療の前にマッケンジー法によるメカニカルな評価(姿勢や運動などによる評価)を行うことがいかに大切か皆さんに少しでもお伝えできたら幸いです。