case_7 左手関節痛

一週間ほど前から続いている手首の痛み、原因がわかりません

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回の症例は左手関節痛のある40代女性のお話です。

この方は当時、同じ病院で一緒に働いていたリハビリのスタッフの方で、お仕事柄、手首に負荷をかけるは比較的多いようです。

1週ほど前から左手関節掌橈側(とうそく・親指側)の痛みを覚えるようになったそうです。

痛みはあまり変わることはなく、湿布で多少良いかという程度のようです。
手のひらを上に向ける(前腕を回外)ときに左手関節の親指側にある橈側手根屈筋腱とよばれる筋腱にそったあたりの疼痛がはしり、さらに握りこぶしを作って握ってもらうと痛みが強くなります。これらの症状をベースラインにして評価をすることにします。

症状からは腱鞘炎のようですが、マッケンジー法の評価では一見すると腱鞘炎のように見えても、頚椎から診察します。

リハビリスタッフですが、業務的にはPC作業はかなり長いようです。椅子に座った状態の姿勢をチェックすると、頭が前に出た状態(Protruded head +)があることがわかります。

まずは姿勢を整えてみます。しっかりと矯正された姿勢をしばらく保持してみます。そして先ほどの痛み方と比較してもらうと、左前腕回外で響いていた痛みが少し軽いように感じられるようです……少なくとも悪くなっていないので続けます。

頭を後ろに引くエクササイズを5回、左手をぐっと握ってもらうと…
さっきのようには響きません!

(RET 5回 B)

頭を後ろに引いて伸展(顔を上に向けるような動作)方向に動かそうとすると伸展45°で後頚部痛がでてそれ以上は向けないようです。

頭を後ろに引くエクササイズに戻して5回、さらにしっかりと押し込んでもらいます。
ベースラインの変化をチェックすると、回外時の痛みはもうありません。
握りこぶしをぐっと握ったときの痛みが2〜3点(考えうる最大の痛みが10点満点として)に改善しました!

再び頚椎のエクササイズで伸展まで少しずつもっていくと……今度は後頚部痛はなく、どんどん上が向けるようになってきます。
5回繰り返すうちにほとんど真上を向けるまでになりました。

さらに負荷を上げたエクササイズを5回。
左手をしっかり握ってもらうと……もはや痛みはなく、軽いだるさのような症状が残るのみになりました!

(RET+EXT w/op self 5回 B)

この間、左手関節の動きについてはベースラインチェックのために動かしてもらっているだけで、他に一切触ってもいません。実施したのは姿勢矯正と頚椎のエクササイズのみです。

ここまで来ると、本人も

A子さん
A子さん

えぇ〜、えぇ〜、どうしてぇ〜???

みたいな、まるでマジックショーを見た後の興奮状態です。
体のことをより理解していると思っている医療職だからこそなおさらです。

マッケンジー法を学ぶ以前は、最初の症状と局所の圧痛点、誘発テストなどみて、腱鞘炎ないし腱周囲炎などの診断で湿布や手関節のストレッチ指導と消炎鎮痛剤の外用薬処方で終わっていたケースでしょう。もちろん、全ての腱鞘炎(と思われる病態)が同様に頚椎のエクササイズで改善するというわけではないのですが、上肢痛を訴える患者の中に頚椎エクササイズで症状が改善するケースが意外に多いことは間違いなさそうです。