福岡マラソンに向けて走る練習していて左膝が痛くなりました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は福岡マラソンに向けて走る練習をしていて左膝が痛くなったという40代女性のお話です。
今回ご紹介するお方は日頃から週に一回、10km程度は走っていて、にわかランナーではありません。
2週間ほど前に、少し距離を伸ばして18kmほど走った後、左膝の内側が痛くなりました。それ以降、走り始めに同じ部位の痛みがあり、左膝をストレッチするようにぴーんと伸ばすと痛みが強くなります。しかし、走っているときにはさほど気にならないようです。このあたり、これまで症例ファイルをご覧頂いている皆さんにはピンとくるところかもしれません。
もともとお元気な方で、お伺いした情報からもレッドフラグはありませんので、通常の評価をすすめます。
痛みの部位をお伺いすると、
このあたりが痛いんです……
と、左膝の内側(脛骨内顆前内側、関節裂隙から3㎝ほど遠位)に痛みがあると言われます。
現在は歩くときに3点(考えうる最大の痛みが10点満点として)、座っているときにも同部の圧痛が3点の痛みがあり、これらをベースラインとして評価を続けます。
座っていただき座位の姿勢を確認します。背筋は比較的伸びていますが、やや頭が前に出た猫背になっています。
(Protruded head +)
姿勢を矯正して保持すること1分。
さっきの痛いところもう一度押してみましょうか
何度か押しながら、
…んっ?さっきより痛くないような感じがします。さっきが3点だったら1点くらいかな…
(座位矯正保持 1分 decreased B)
腰椎の可動域検査をすると、屈曲(前かがみのこと)で指先が床から10㎝ほどと運動なさる割に体が硬い印象です。
その時、
いま膝の内側がピリッと痛かったです
他の動きでは左膝の痛みはでませんでしたが、屈曲時、左膝の例の痛みがでました。ますます腰が関連しているように思えてきます。
走っていて、途中に痛くなったことを想定し、どこでもできるエクササイズがどの程度の効果があるかを先に確認します。
立ったまま腰を思いっきり反らせる体操を、ポイントをご説明しながら10回。
歩いてみましょうか
……全然痛くないです!
座っていただき、先程の押さえていたかったところを押してもらいますが、それでももう痛みはありません。
(EIS 10回 abolish 圧痛、歩行時痛 B)
さっきの前かがみをやってみましょう
さっきより曲がりやすいです!……反らす運動しかしてないのに…?
このように、痛みが改善するだけではなく、動かしていない方へも動きが良くなることも、マッケンジー法のDerangementとよばれる分類ではよくみられます。
今回は腰痛の全く無い左膝痛のみの症状でしたが、膝ではなく腰椎のエクササイズで痛みがなくなりました。
もちろん腰のエクササイズで改善しない場合は膝の評価・治療を行うことになりますが、これまでの症例ファイルでもご紹介してきたとおり、膝が痛いときに膝ではなく腰のエクササイズにより症状が改善する人は稀ではありません。
マラソン仲間にも膝が痛いと言う人は多いそうです。その方々の膝の痛み、膝自体が悪いからなのか……それは腰の評価してみないと何とも言えないのです。