左股関節の痛みがあり、レントゲン写真では関節の軟骨がすり減っています
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左股関節の痛みで受診された70代女性のお話です。
70代といっても大変お元気で、ボランティアで出て回ることが多いそうです。2年ほど前から左股関節(脚の付け根あたり)に時々痛みを覚えるようになっていました。3〜4ヶ月前から痛みが強くなり、歩いているときや、座っていて立ち上がるときなどに左股関節の痛みます。整骨院にしばらく通ったのですが改善せず、近くの整形外科に行ってレントゲン写真を撮ってもらい、軟骨がすり減っていると言われました。その治療としては湿布と塗り薬を処方されているのですが、あまり改善していません。
単純X線写真(レントゲン写真)では、たしかに左股関節の変形を認めます。(進行期股関節症)
さて、このようにはっきりと股関節の変形があり、同部位周辺の症状があるとき、どこから診察するのでしょうか。
マッケンジー法では……そう、脊椎からですね!
姿勢の確認をすると、胸椎は後弯していて、姿勢の矯正は容易でなく硬い印象です。
このように通常の姿勢矯正が難しい場合はできることを探します。
両手を太ももについて、できるだけ胸を前に出してしっかりと背骨を伸ばせるだけ伸ばしていただき1分間保持してみます。
もう一回立ってみましょうか
あらっ、今はそんなに痛くなかったです…
立っていただいた状態で腰椎の可動域を確認すると、屈曲・伸展、横への動きも特に制限なく、左股関節の痛みもないようです。
流し台のところに来ていただき、腰を安定させて、そらす動きをしっかりと5回。
歩いてみましょう
あらっ、少し軽いような…
(流し台 EIS 5回 B?)
さらに声をかけながらしっかりと5回追加してみます。
もう一回歩いてみましょうか
…痛くない……痛みはないです!
先程より自信を持って歩いておられるのがわかります。
エクササイズのポイントなどご説明して初回評価を終了しました。
それから3日後。
立ち上がりがしやすくなり、歩くのも楽になったようです。
お約束のエクササイズは、なんと一日10セットほどもしています。
今はもう湿布も全く使っていないとのこと。
エクササイズのチェックをしてみると、とてもよくしっかりと腰をそらすことができています。
何もしていなかったから…来てよかったです
左股関節痛があり、レントゲン写真では進行期の変形性股関節症の所見まで揃っていました。一般的な整形外科の診療では保存療法なり人工関節などの手術療法なり、左股関節の治療をどのように行うかという治療が一般的でしょう。
ところがマッケンジー法で評価した結果、今回は腰椎の伸展エクササイズで左股関節の症状が改善しました。
もちろん、立ったままでの腰椎の伸展をするときにも股関節の動きが入っているので、股関節を伸展したことによって症状が改善した可能性もあります。
しかし、実際に起こったことは、「進行期の左変形性股関節症の画像所見がある左股関節の痛みを訴える70代女性が、立ったまま腰椎の伸展エクササイズを行っていたらその症状が改善した」という事象です。
これをどのように論理的に説明しても本当の科学ではなく考察に過ぎません。
マッケンジー法は、ある症状に対して様々な形でメカニカルに刺激を加える評価を行った結果、どのように症状が変化するのかという事を長年に渡り数多く集積し、そのデータに基づき構築された評価・治療法なのです。