3ヶ月ほど前から掃除機をかけるときなどに右肘が痛みます
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右肘の痛みで来院された50代女性のお話です。
3ヶ月ほど前から、特にきっかけもなく重いものを持った後や、掃除機をかけるとき、頭の後ろを指で指圧するように押すときなどに右肘が痛いことに気づきました。以前、左肘が痛いことがあり、それについてはお近くの整形外科に通って肘の治療を受け、良くなったそうです。
家では床に座る時は後ろのソファを背もたれ代わりにだらりとした姿勢でいることが多いようです。
診察のために常備している重いフライパンを右手で振ってもらうと、4〜5点(考えうる最大の痛みが10点満点として)くらいの痛みが再現されます。
座っていただき、姿勢を確認します。
姿勢は悪く、頭が前に出た座り方です。
(Protruded head +)
姿勢を矯正するポイントをご説明し、矯正して保持すること1分。
もう一度フライパンを振ってみましょうか
あらっ、さっきより軽い……
方向性が見えてきましたね。
可動域検査では多少の制限はあるものの、可動性に問題なく、メカニカルな負荷を上げても良いと判断し、最初から負荷を大きめにした伸展(上を向く)を行います。
まず、一回。特に問題が無いことを確認します。
続けて4回。トータル5回の伸展する体操をしてもらいます。
さぁ、フライパンを振ってみましょう
何度か角度を変えて振りながら確認して、
……痛くないです!
(RET+EXT w/op self 5回 abolish)
日常生活動作で注意することとエクササイズの内容など宿題を確認し、初回評価を終了しました。
それから2日後。
肩こりがすごく楽になりました
肘の痛みはいかがです?
少し痛いこともありますが2点くらいです。掃除機をかける時も痛くありませんでした
今は?
あれこれと動かしながら、
……痛くないですねぇ〜……痛くないですねぇ〜
フライパンを振ってみましょうか
フライパンをあれこれ動かしながら痛む振り方を探します。
フライパンをこんなふうに振ったら1-2点くらいは痛いです
念のため、もう一回振っていただけます?
同じように何度かフライパンをふりながら、
……んっ、あれっ、今度は痛くないです……
このようにある動作をしてさっきは痛かったのに、今度は同じ動きをしても痛くないという症状の変化はマッケンジー法の分類ではDerangementと呼ばれる分類を強く示唆する所見です。
ご自宅でやっておられたエクササイズをチェックします。
よくあることなのですが、最後までしっかりとやりきるところが意識できていない事がわかりました。
いまのを5回やりました?
えっ?5回もやるんでした?1回ずつしかしていませんでした
それでもだいぶよいようですから、もっとやるともっと良くなるでしょうね!
このような勘違いもよくあることなのです。
さっそくしっかりと伸ばし切るのを意識して5回。
きついですね〜
いいですね!そのきつい感じを忘れないでください。毎回、エクササイズをやるのは形ではなくて、いかにしっかりとやるかなんですよ!
そして初診から6日目。
だいぶ良いのですが、肘を伸ばして物を持ち上げると両肘とも痛いと言われます。
ほかは良くなったんですが、この動作は痛いんです……
エクササイズチェックします。まだ「しっかり」がゆるいことがわかりました。
いまの体操を1セットあたり何回を何セットくらいできました?
えっ……一日に5回くらいでいいと思ってました
このようなやり取りを繰り返すことは稀ではありません。
フライパンを持ち上げる動作をしてもらい、右肘8点、左肘3点の痛みが再現できることを確認します。
エクササイズのポイントを再度ご説明し、「しっかりと」を意識して「うっ」と声が出るくらいしっかりと伸展していただきます。
右手でフライパン持ってみましょうか
……あっ、減ってます
何点くらい?
4点くらいかな
左はどうでしょう
1点くらいになってます
さらにしっかりと5回伸展していただきます。
まず左はどうでしょう
やっぱり1点くらいかな……
右は?
こっちは2点くらいかな……
さっきは右は4点くらいだったんですが、減りました?
あぁ、そういえばさっきより減ってますね……痛いのは肘なのに不思議……
肘は何も触っていないのに首を動かしてるうちに肘が痛くなくなるってホント不思議ですね!
この方は、肘の痛みと首のエクササイズとの関係について腑に落ちないところがありそうで、もう少しフォローが必要そうですね。
このように症状の改善のための生活習慣・エクササイズ習慣が軌道に乗るまでは、できれば2、3日おきに受診してもらい、注意すべき点、エクササイズのポイントなどをご説明しながら症状の改善と再発予防のための自己管理を目指していきます。