前日までなんともなかったのですが、ある朝起きたときから右膝が痛くなりました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右膝が痛くて来院した小学生のお話です。
実はこのお子さん、だいぶ前に左踵の痛みで来院したことがあり、その際には腰椎の評価で速やかに治癒に至ったという既往歴があります。
しかし、事前情報からの先入観は持たないようにしておかないと落とし穴に落ちますので、過去の評価と経過についてはあくまでも参考程度に心に留めておきます。
受診した当日の朝起きたときから右膝が痛くて、右足がつきにくいため来院しました。空手をしているお子さんですが、その前日まで特に変わったことはなかったようです。
歩行時に右脚に体重が載ると右膝蓋骨のやや遠位、膝蓋靭帯のあたりに5点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みがありますが、あまり「ここ」というポイントはなく、ぼやっとした「このあたり」という感じで、認定セラピストの方々にはピンとくる訴え方かもしれません。
以前診察した時もそうだったのですが、あいかわらずクネクネとしていて座っている姿勢は悪いです。
姿勢を矯正して保持すると指示されたとおりにシャキッとできます。1分ほどキープした後に再び立って右膝の痛みを確認しますが、特に変化はないようです。
(姿勢矯正保持検査 NE)
腰椎の可動域検査では伸展がものすごく柔らかい割に、屈曲は指先がちょっと届くくらいでバランス的には屈曲が制限されている印象です。
腰を横にスライドさせる動作では左右とも右膝が痛くなりましたが、もどると痛みは残りません。
右片足立ちするときに感じる右膝の痛み5点をベースラインにして評価を開始します。
もちろん、腰椎からですね。
立ったまま思いっきり腰を反らせてもらうと、そのままブリッジできるんじゃないかというくらいやわらかく反らせることが出来ます。5回ほど続けると途中右膝痛がでますが、終わると悪くはなっていません。
(EIS 反復 右膝痛P-NW)
はっきりしないので、診察台座ってもらい、おもいっきり屈曲を10回。これは非荷重の状態で、さきほどと逆の動きですが、やはり右膝に痛みが出て、戻ると元通り。腰の動きによって症状が出るのは間違いなさそうです。
片側の症状でもありますし、屈曲も伸展も同様に痛みが出ますから、横にスライドする動きを評価してみます。
まずは左に5回。動かしている時に右膝痛が出ますが、戻ると元通りです。
(左SG produce 右膝痛 NW)
次に右を評価します。しっかりと右に5回。おやっ、今度は少し悪くなったようです!…が、あまり大きな変化ではありません。
(右SG produce 右膝痛 W?)
はっきりした変化ではないので、ここでもっと悪くしてみるのも良いのですが、先程は変化がなかった左をさらに負荷をしっかりとかけてスライドしてみることにしました。
ゆっくりと、しっかりと腰を横に押し込むこと5回…。さきほどは痛みがでて、戻ったら元通りのパターンでしたが、今回は少しずつ右膝の痛みが軽くなってきました!
また片足立ちやってみようか
…さっきより痛くないです!
(左SG 右膝痛 P-NW 反復とともに軽快 B 右片脚荷重時痛 3点)
さらに、日常生活の癖などあれこれと伺っていると、床に座っている時に左膝だけかかえて座る癖があることがわかりました。
実際に診察台でやっていただくと、左膝を曲げて抱えると座りやすいけれど、右膝を抱えて座るとバランスが取りにくいのが確認できました。
関連性については不明ですが、側方に負荷をかける動きをさらに続けたくなりますね。
実はこの程度の症状の変化では、まだマッケンジー法における分類のDerangementと決めてかかるのは危険です。
しかし、少なくとも悪くなっていないので、エクササイズの指導をして翌日来てもらうことにしました。
(エクササイズ 左SGIS 5回/セットでできるだけ)
そして、翌日…。
もう痛くないです!
さぞかしエクササイズを頑張ったのかと思いきや、昨日は学校で3セットのエクササイズをしたのみで、それから全く痛くなくなったので、以後やっていません。
家では…やはり左膝をかかえがちだったようです。
良い姿勢をとらせるとすぐにシャキッとできます。
この姿勢はきつい?
きつくないです!
返事はすごく良いのですが、しばらくするとまたぐねーっとなります。
クネクネしていてすぐに姿勢が崩れがちなので、姿勢チェックのポイントをお母さんにご説明し、今後も目の届く範囲で良い姿勢を意識していただくようにお願いしました。
今回は腰椎の屈曲・伸展、横方向のスライド運動などいずれも最初ははっきりとした結果が出ませんでした。
このような時、次に膝の評価を行うという考え方は間違いではありません。しかし、本当に腰の評価をやりきったのかという事を考えながら、さらに腰の評価を続けるのも一つの考え方です。実際、もし腰の評価をさらに続けて結果がはっきりしなかった場合は次に膝の評価をしたでしょう。
マッケンジー法による評価は、評価する医療者だけでなく評価される患者によっても、あるいはその両者の関係によってもゴールまでの道のりは様々なのです。