半年ほど前から続いている左肩の痛みが急に悪くなりました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左肩の疼痛を主訴に来院された60代男性のお話です。
半年ほど前から左肩を水平内転するようなストレッチをするときに軽い痛みを覚えていました。ちょっと変わった痛みの訴えですが、肩の後方をストレッチするときによくやりますよね。
それ以外にはさして痛いことはなかったので放置していましたが、今年になって、その痛みが強くなりました。昨日はどの方向にもちょっと動かすだけで激痛だったのですが、その後、痛み止めを飲んで来院し、診察の時にはすでに少し痛みが治まった状態です。
左肩の外転、前方挙上などは疼痛はありませんが、軽度の制限があります。
左肩の水平内転で右手でしっかりと胸に引きつけるようにすると左肩峰のやや後方に5点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の疼痛が誘発される事を確認しました。
左手を背中に回して左手背を背中につける動作(以後、HBB:Hand Behind Back)でも同じ部位に2-3点の疼痛があります。
この段階ではなんとも言えませんが、動作と痛みの部位などからは肩の後方にある三角筋の後部、棘下筋、小円筋などの病態※を疑う人もいるかもしれません。
単純X線検査では肩峰の変性と、肩外転位での撮影では肩峰下腔狭小化が認められます。
でもマッケンジー法では……そう、頚椎から評価するんでしたね!
問診では特にレッドフラグはありません。
姿勢は頭が前に出た猫背です。
(Protruded head +)
姿勢を矯正して保持すること1分。
さっきやった後ろに手を回すやつやってみましょうか
ん、あらっ、少し良くなってる
左腕をあげて胸に押し付けるのはいかがですか
…う〜ん、これは変わらんかな……
(HBB 0.5点、水平内転 右手での他動で 5点)
頚椎の可動域を確認すると、伸展方向が中等度に制限されていますが、いずれの方向も痛みが出たり、気分が悪くなったりはしません。
頭を後方に引く動作は比較的よく出来ますので、これをさらにしっかりと押し込む動作を入れてからしっかりと伸展する負荷をかけてみます。
再度、気分不良など無いことを確認した後、続けて4回、計5回の伸展を行ってみます。
左手を後ろに回してみましょうか
…もう痛くないですねぇ〜
押し付けるのはいかがでしょう?
しっかり水平内転しながら、
軽くなってます!
(RET+EXT w/op self 5回 HBB abolish、水平内転 右手での他動で 2-3点)
さらに5回続けます。
胸に押し付けるのやってみましょうか?
…おお、だいぶいいですね。もうほとんど痛くないです!
ゼロです?
ゼロじゃないですね…0.5くらいかな…
もっと続けてもいいですか?
ええ!
さらに5回、しっかりと頭を引いた時にさらに1秒ほど右手で負荷を加えて一呼吸置いてから伸展してみます。
もう一回やってみましょうか
ぐいぐいと何度か押しつけながら、
もう全然痛くないです!
(RET w/op self 1秒+EXT w/op self 5回 HBB abolish、水平内転 右手での他動 abolish B)
姿勢、自宅でのエクササイズなど再度確認して初回評価を終了しました。
そして翌日。
「もうほとんど痛くないです」
嬉しいご報告…。でも「ほとんど」というのが気になりますね。
どのくらい残ってます?
1くらいですかね
水平内転していただくと、たしかに今も1点の疼痛があるようです。
エクササイズがどの程度できたかお伺いすると、昨晩から今までに6セットも出来たそうですから優秀ですね。
回数は問題ないとして、やり方もチェックします。
動きは比較的よく出来ているのですが、最後にもう少し頑張っていただくポイントをご説明して5回。
いかがですか?
何度か水平内転しながら、
だいぶいいです…いや、もう全く痛くないです…
マッケンジー法を知らなかった頃の自分でしたら、診断、治療をかねて、おそらく関節腔内注射などをしていたのではないかと思われる症例でしたが、またもや頚椎のエクササイズで改善する症例でした。このように、単純X線検査では変性所見もある肩関節の痛み、一見すると肩関節周囲の問題のように見える場合であっても、中には頚椎に関連した痛みもある事をお伝えできれば幸いです。