4ヶ月ほど前から背中の右側が痛みます
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は背中が痛くて来院された40代女性のお話です。
4ヶ月ほど前からこれといった思いあたるきっかけもなく右肩甲骨の内側あたりに痛みを覚えるようになりました。
近医で腹部エコー、CT、胃カメラなど様々な検査を受け全て異常なしとのことで、総合内科へ紹介をうけ、整形外科的疾患を疑われ紹介された患者さんです。
問診はすべての診療科で非常に重要なんですが、マッケンジー法を学んでからは特に生活習慣の問診を入念に行うようになりました。この方はレジ打ちの仕事を一日5時間、休憩なしでされていることがわかりました。
右肩甲骨内側の痛みが間歇的(痛いときもあれば痛くないときもある)に4ヶ月ほど続いているとのこと。痛みが出るときには先の硬いマッサージ器具で痛みのある部位を圧迫してしのいでいたようです。
ところが、受診当日はほとんど症状がなく、受診理由は、がんではないかと心配で来られたことがわかりました。
症状の全く無い方は症状の変化が捉えられませんので評価が大変難しいと言えます。
姿勢を見るとやや頭が前に出た感じで、日常業務とあわせると姿勢の矯正が重要に思えます。
マッケンジー法で評価を行うと、やはり頭が前に出た状態では症状が僅かに増悪するようです。
症状のない状態でお見えになったため、どのようなエクササイズが適当であるのか、まだ確定できませんが、伺った生活状況と姿勢などから確率的に高いと思われる方向のエクササイズとレジ打ち時の姿勢と椅子に座る時の注意点などご説明し、初回のセッション終了しました。
それから1週間後の経過確認の予定でしたが、お見えにならず、初診から1ヶ月ほどたったころに再診されました。
おやっ、症状が悪くなったのかな?……と思ってお話を伺ったところ、以前感じていた右肩甲骨内側の痛みがほとんど気にならないレベルになったとニコニコ顔でご報告されました。
エクササイズはどのようにしていたかをチェックしてみたところ、実はエクササイズはほとんどしてなかったご様子。
どういうふうにやるかを覚えている範囲でやってもらうとそれなりに形は覚えておられますが、ややぎこちなくポイントをおさえておられず、本当にエクササイズをやっておられなかったのがわかります。
それではなぜ良くなったのか……?
実は姿勢についてはバッチリ意識して、座るときにはかならず腰のそらしを意識したクッションをいれたりしていたようです。つまり姿勢の矯正だけで右肩甲骨内側の痛みが著明に改善したという事になります。
まだほんの僅かに右肩甲骨内側の違和感を感じるとのことですので、さらに改善するためにやはり頚椎エクササイズは続けたほうが良いことをお話ししましたが、ご本人が現状で満足されているとすれば、それは余計なことかもしれませんね。
この患者さんにとっては現在の姿勢保持の習慣化ができていることでセルフマネジメントができているとみなしてもよさそうです。
その昔、あるラジオ番組でマッケンジー法の創始者であるロビン・マッケンジー氏がパーソナリティーに「あなたが患者さんにもし一つだけ伝えることがあるとすればなんでしょうか?」と質問されて、「Posture!(姿勢です!)」と答えたのだと、マッケンジー法の研修会で教えていただきました。姿勢がいかに大切なのかを今回の症例から多くの皆様にお伝えできれば幸いです。