「手首が痛い」…痛いのは確かに手関節痛のようですが……
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右手首が痛くて来院された70代女性のお話です。
これまで当クリニックのマッケンジー法・症例ファイルを読んでいただいていた皆さんには、もう何の解説も要らないかも知れませんが、手関節の痛みであってもマッケンジー法で評価します。
さて、2週間ほど前のこと、特に捻ったり、打ったりした覚えもないのに、ふと右手を着いたときに、手首が痛いと感じたようです。
しかし、自分の左手でどこが痛いか当たってみると、その時々で少し場所が違うような気がするとのこと……このあたりでピンと来たら、あなたもマッケンジー法通ですね!
整形外科ですから、頚椎のレントゲン撮影も行いました。軽度辷り(C4/5)は後屈で整復される事が確認されますが、メカニカルな評価(首を動かしていただく診察)に問題があるような所見はありません。
いちおう付け加えておきますが、右手関節は異常所見なく、他のレッドフラグもありません。
さてどこが痛いかと診察すると、ここかな?ここかな?と自分で押していただき、あっ、ここ、と教えていただいた場所は、おおよそ手関節背側、ちょうど月状骨(手首の小さな骨の一つです)あたりです。
右手関節を自分で曲げていただくと、6点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の疼痛が再現できましたので、これをベースラインに評価をします。
まず、姿勢が悪いので、姿勢矯正保持を2分ほどしてみます。
これは手関節痛に明かな影響はないようです。
あえて「明らかな」と表現したのは、ちょっと違うかな?という様子が見て取れたのですが、お伺いするとはっきりとは違わないというニュアンスです。
頚椎の可動域をチェックし、手関節を含め放散痛なども無いことを確認できました。
運動については明かな悪影響はないので、あごを引いた状態から伸展までしっかりと5回やっていただきます。

手首の痛みはどうですか?

あらっ、さっきの半分くらい…
(RET+EXT 5回 B 手関節屈曲時痛 6→3点)
さて、痛みが半減はしましたが、これだけで良かった〜……と喜んではいられません!
マッケンジー法ではある動きで症状が改善しても、その症状改善が持続するのか、またその動き(メカニカルな刺激)を行うと、一貫して良くなるのかなど、その後どうなるのかさらに経過を確認する必要があります。
その翌日、最初のフォローアップです。
首の後ろの方が凝ったように痛くなったとのことですが、これはよく経験される事で、エクササイズをそれなりに頑張っておられる証拠ととらえます。
痛みについては、まだ手をついたら5点の痛みがあります。初診時は手をつかないで手首を曲げるだけで6点の痛みがありましたから、若干改善しているように見えますね。
その場でエクササイズを5回、疼痛は3点に軽減します。
(RET+EXT 5回 B)
引き続きエクササイズを頑張っていただくことにしました。
そして初診から3日目。
エクササイズで後頚部痛がでるので、昨日はあまり出来なかったようです。
右手関節の背屈時の疼痛は3点で、ベースラインの疼痛は軽減しています。
頚部痛はいずれよくなる事をご説明してさらに頑張っていただきます。
そして初診から2週間目。
症状をおたずねすると、右手関節の痛みはちょっぴり残っているがほとんど良くなったと言われます。
手関節を背屈するだけでは疼痛がでませんので、さらに手を机についてもらい荷重して1-2点をベースラインとします。
いつものエクササイズを、しっかりと最後まで動かすことを意識して5回……。

さっきの右手を机に着くのをやってみましょうか

……あれっ、痛くない……
こうかな、いや、こうかな……と少し向きを変えながら手をついて確かめられますが、確かに疼痛は消失しています。
(RET+EXT エンドレンジを意識して 5回 abolish B)
ただ、まだ問題が。
それはまだ手関節の症状の変化と頚椎のエクササイズとの関係が腑に落ちていません。
毎回、なんで?手首が痛いのに、なんで?……がまだ抜けていないのです。
マッケンジー法では最終的に自分の症状に対して自分で管理できる事を目指していますので、仮にまた症状が出ても、こうすれば良いのだという自信をもってもらいたいと考えています。
というわけで、症状的にはほぼ卒業なのですが、もう少しだけお付き合いいただきたいと考えています。