両手関節痛のある40代女性、手関節の腱鞘炎を思わせる診察所見なのですが…
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は両手関節の痛みを主訴に来院された40代女性の初診から終診までの4週間のお話しです。
保育士さんで、4ヶ月前から小さなお子さんを抱えることが増えて、3ヶ月前くらいから左手関節が痛くなり、翌月には右手関節も多少痛むようになりました。ある整骨院でエコー検査などされて腱鞘炎の診断を受けておられます。最近は整骨院でもエコー検査をするんですね。もちろん程度にもよりますが、腱鞘炎をエコー検査で診断するのは簡単ではありません。
両手関節の症状ではありますが、マッケンジー法で評価を行う場合、上肢の症状は頚椎から診ていきます。
単純X線検査では変性(C5/6)とストレートネックを認めますが、メカニカルな評価の禁忌になるような高度の不安定性などありません。
Finkelstein’s testと呼ばれる手関節橈側のドケルバン(De Quervain)腱鞘炎で陽性になる検査は左右とも陽性で、たしかに腱鞘炎様ではあります。
それでもマッケンジー法での評価は……もちろん頚椎からですね!
Finkelstein’s testは右点7(考えうる最大の痛みが10点満点として)、左3点を認め、これらをベースラインに評価スタートします。
座位姿勢は悪く、頭が前に出た猫背の状態です
(protruded head+)
姿勢を矯正して保持すること1分……ベースラインのチェックを行います。
あれっ?
左右とも疼痛の軽減があり、左は痛みが消失しています!
(姿勢矯正保持検査 1分 B 右 7→3点 左 abolish)
年齢、可動域検査、レントゲン所見など総合的に考えて、しっかり動かしても大丈夫と判断し一気に伸展までもっていくと……
手首の痛みはどうです?
違和感はありますが、痛くないです!
右手関節のベースラインも多少違和感がある程度でもはや疼痛は感じなくなりました。
(RET+EXT w/op 5回 右多少違和感+、abolish, 左 abolish)
もしマッケンジー法を知らなかった頃にこの方を診察していたら、診断名は間違いなく「ドケルバン腱鞘炎」だったでしょう。
しかし手関節には何も触れずに姿勢と頚椎のメカニカルな評価だけで良くなったのですから腱鞘炎と呼べるのか怪しいですね。
姿勢とエクササイズの指導を行いフォローアップとしました。
以後のフォローアップは要点のみで飛ばします。
3日ほどで仕事には支障がない程度には改善したのですが、実は少しだらだらと軽い症状が続いていました。
初診から1週間後、この日も右の手関節痛は3点程度あったようですが、待合室で待っている間に姿勢を良くしていたそうで、診察室に入ってこられた時にはすでにFinkelstein’s testでは疼痛誘発されない状態になっています。
初診から2週間の時点では、右手関節がまだ2点くらいあるようですが、エクササイズのチェックを行うと、少し頭の引き具合が甘いようで、これを再度指導します。
が、初診から3週間でもまだ3点の疼痛が残っています。
姿勢をしっかり整えて保持すること1分……やはり右手関節の疼痛は消失します。
そして初診から4週。
今日は診察に向かうため、車を運転している時に、
あらっ、右手首が痛くない!
と気づいて、なんと言おうかと思っていたそうです。
姿勢はかなり意識できているようで、ようやく良い姿勢の効果が安定してきているように思えます。
軽い右手関節痛を覚えても、すぐに自分で症状が改善できるので何の不安もない毎日を送られているようで、卒業としました。
今回、エクササイズで症状が改善するにもかかわらず、だらだらと症状が続いたのは……もう皆さんお気づきでしょうか。やはり姿勢ですね!
エクササイズをする時間よりそれ以外の時間が圧倒的に長いのです。この良い姿勢を意識することが症状改善の近道になることは決して少なくないのです。