case_42 右殿部〜右膝痛

2〜3ヵ月前から右殿部から右膝にかけての痛みがあります

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は介護職で、主に右殿部から右膝の痛みを主訴に来院された50代女性のお話です。

数年前に介護中にピンと右膝を伸ばして急に体をひねったとき、右膝が抜けたようになり痛く動かなくなったというエピソードがあります。その後、膝が腫れてきたため近医で検査を受け右膝蓋骨脱臼した後の状態だろうと言われ、固定3週間に加えて、その後はサポーター固定の治療を受けました。
その際、骨の異常については指摘されていないようです。病態については現時点ではなんとも言えませんが、その後はとくに右膝の不安感などもなく生活されていました。

さて、2〜3ヶ月ほど前から、誘因なく右殿部から右膝にかけての痛みを覚えるようになりました。仕事が忙しい時は、左も多少痛みがあるようです。

初回評価の詳細は省きますが、腰椎伸展エクササイズで右膝痛の明かな改善がありましたので、立位、臥位での腰椎伸展エクササイズをやっていただく事にしました。

1日目、昨晩は臥位での伸展エクササイズを2セットできたのですが、今日は忙しく、全くエクササイズができず。症状はいいといえばいいのだけれど、いつも夜勤明けに悪い状態になっていたので、夜勤をやっていないと何とも言えない状態です。

それではということで、スケジュール表で夜勤の予定を見ていただき、夜勤の後に再来していただくことにしました。

そして、初診から10日目、いよいよ夜勤明けに受診していただきました。

その間、夜勤は2回あったようで、1回目の夜勤の時は以前と同様の痛みがありました。
エクササイズについてはがんばっていたようで、だいぶ身体が柔らかくなってきたことは自覚しています。

さて、現在の症状はというと……右殿部から大腿近位後方までの痛みが5点(考えうる最大の痛みが10点満点として)。
最初にあった右膝のあたりまでの痛みはもう感じません。

これはマッケンジー法では良い兆候(Centralizationと呼ばれています)と考えます。

再度評価を行います。まずは自宅でされていた臥位での伸展エクササイズ(EIL)をチェック。

まず1回。んっ、その表情を見ていて気づきました。
楽に見えるというか、楽に出来るところまでやっている感じです。
そこで、もっと腰を落としてエンドレンジ(できるかぎりの範囲)を意識した動きを指導してやっていただくと……

A子さん
A子さん

腕がきついです〜

佛坂
佛坂

それではここでやめておきましょう

A子さん
A子さん

いままでは腕に体重がかからないようにやっていました

佛坂
佛坂

腕に体重がかからないように腰をそらすのは難しそうですね…?

A子さん
A子さん

どうやったんだろう…?

どうあれ5回くらいで両腕が辛くなり、ここで腹臥位での伸展反復(EIL反復)は終了します。

もちろんこれで止めるわけではありません。
別の方法で続けます。

立位でのベースラインチェックします。
可動域チェックをすると、ご本人が言われていたとおり、凄く柔らかくなって楽に伸展できています。

しかし方向性はよさそうでも、症状が思うように改善しない場合、その一つの原因として、「しっかり最後まで動かす」という事がおろそかになっている可能性があります。

この方の場合も、初診とは比べものにならないくらい柔らかくなっているのですが、今はそれなりにもっとエンドレンジが深くなってると考えました。

そこで、エンドレンジを意識してしっかりと立位での伸展(EIS)反復5回。途中、万一ふらついた時に支えられるように横について、サポートします。

佛坂
佛坂

もっともっと!

と声をかけて応援します。

そして再びまっすぐに立っていただいて、さきほどベースラインとしてとっておいた右殿部から大腿近位後方までの痛みについて確認します。

佛坂
佛坂

今、先程までのお尻から太ももまでの痛みはどうですか?

A子さん
A子さん

ん…(おしりをあたりながら)、今は違和感はあるけど痛くないです

佛坂
佛坂

自分でやっていたやり方との違い、感じていただけましたか?

A子さん
A子さん

わかりました!

佛坂
佛坂

なんとなく10回やるよりも、しっかりと1回の方が効き目があるんですよ!

(殿部から大腿痛 abolish B、違和感のみ)

「マッケンジー法」は単なる腰痛体操ではありません。動かすべき方向だけでなく、どこまでどのように動かすのかを、その患者さんの状態に応じてその場で判断します。
モニタリングはマッケンジー法の考え方のコアの一つとも言えます。今回のように、患者さんの表情を見ることで現在のエクササイズが適切なのかを判断できることもあるのです。