腰椎すべり症があるのに腰を動かしていいのでしょうか?
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は両足のしびれを主訴に来院された70代女性のお話です。
2年ほど前から右足先のしびれ感を覚えるようになりました。その後、徐々に左足先にもしびれがでてきて、以来ずっと両前足部のしびれは、起きている間になくなることはありません。近医で腰部脊柱管狭窄症と診断され1年ほど前から血流を良くする薬をもらっていますが、あまり効いた感じがないようです。しかも、痛みは良くなるけれど、しびれは良くならないとハッキリ言われたとのこと。辛い宣告ですね。
お話を伺う限りではレッドフラグなしです。
単純X線撮影しました。腰椎すべり症(Meyerding分類でL3/4にGrade II)があり、狭搾もありそうです。もちろん参考にするだけです。
すべり症があるのに動かしていいの?……と思われた方がいらっしゃるかもしれません。
マッケンジー法では反応を見ながら評価を進めて行きますので、画像所見にすべりがあるからといって評価をやめる理由にはならないのです。
両足のしびれはありますが、知覚鈍麻はありません。
姿勢不良があり姿勢矯正して保持してみます。
しびれには何ら変化ありません。
今回は疼痛ではないので、少し評価がしづらいのですが、立位での両前足部のしびれを10/10として評価をスタートします。
腰椎可動域検査では、屈曲(前かがみ)は中等度制限があり、しびれ11/10に僅かに増すようです。
伸展(腰をそらす)は重度に制限されていますが、しびれは8/10と若干の改善感があります。
左右に腰をずらしてみると、いずれも7/10程度にしびれ感の改善。
さて、次に臥位で評価します。どちらから?
先ほどのROM検査に対する反応から、伸展を選びます。
えっ、狭窄症で腰を反らしていいの?……という声が聞こえてきそうですね。
マッケンジー法ではメカニカルな負荷に対する反応が全てです。悪い反応が見られたら、そこから別の道を行くだけですね。
うつ伏せになっていただきます。
しばらくしてお伺いすると、
さっきの半分くらいです!
しびれは5/10と立位でのしびれ感の半分になりました。
両肘をついて上半身を少し起こしたパピーポジション(puppy position)で持続していただきます。
今、しびれはどうです?
さっきよりもいいです、2点くらいです
こうなると、70歳といってももう少し頑張ってみたいですね!
一度腰を反らしてみますが特に変化はありません。
(EIL NE)
繰り返してみます……すると一時右母趾あたりにピリピリと痛みを感じたようですが、反復とともに軽快しました。
(EIL 10回 右母趾痛 P 反復とともに軽快 NW)
さらに10回……70歳とご高齢ですから、このあたりでやめないと、疲れちゃいますね。
症状をお伺いしてみると……しびれは1-2/10くらいに改善しています。
診察台の周りを歩いていただき、再び座っていただくと、しびれは5/10まで戻ります。
もう一回だけ……とお願いして、再び腹臥位での伸展をやってみると……しびれは3/10に改善します。
(EIL w/sag 10回 3/10)
実はかなり遠方からおいでいただいたので、次回のフォローアップが数日後とはいかないため、ハッキリと方向性を見極めるために頑張っていただきました。もちろん、すでにおわかりのように伸展方向が良さそうですね!
いつものようにエクササイズのことや注意点などご説明し、加えて今回の診察を振り返って、近くの病院で「しびれは治らない」と言われたけれど、実際にはしびれがその場で改善したという事を忘れないでとお伝えし、初回セッションを終了しました。
本当に治らないのか……、それは動かして評価してみないとなんとも言えないのです。