症状の改善する動かすべき方向が予想と違う?
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右膝痛のある60代女性のお話です。
2週間ほど前から、誘因なく右膝痛を覚えられました。階段の昇り降り、クルマに乗るときに痛みがありますが、平地歩行など痛くないときもあるようです。階段で膝が痛いというお話はよく聞きますが、クルマに乗る時というタイミングをはっきりとおっしゃる患者さんは珍しいですね。
平地歩行ではなんともないようで、今この診察室で歩いていただいても右膝の疼痛はありません。このような症状の無い状態で来院した患者さんに対するアプローチは少々難しいというのが本音です。
というのも、マッケンジー法ではメカニカルな評価をするビフォー・アフターでどのように症状が変化するのかを手がかりに評価を進めるので、症状のない状態はどの方向に動かすのか決めるのがやや難しいのです。
何か症状が出ないかとあれこれやっていただきますが、なかなか右膝の症状が出ません。これは本来喜ぶべき状態ですが、マッケンジー法で評価する立場としては辛い状態です。
さらに中高年で無理な負荷をかけて症状を出すのに成功しても、初診で人間関係を築けていない時点では信頼関係を損ないかねません。
少しずつ負荷をかけてみて、最終的に右片足立ちで少ししゃがんで膝を曲げ伸ばしする時の1点(考えうる最大の痛みが10点満点として)程度の違和感をベースラインとして評価をスタートします。
病歴と症状の出方から、まずは伸展方向が症状を改善しうる方向(DP、directional preference:その人に適した動かすべき方向のようなものです)の可能性が高い考え、うつ伏せから評価します。これについては何ら変化がありません。
puppy position(肘をついたうつ伏せ状態)を試みます。そのままの状態をキープしながら、他のお話をしていて1分ほどたったころ、
痛っ、痛っっっっ……
急に声を出されたのでお尋ねすると、いつもの右膝の痛みが出たようです。伺った情報からは腰を曲げる時に症状が出るような印象だったので、これは正直なところ、予測に反していました。
再びうつ伏せの状態に戻っていただき、しばらくすると右膝の痛みは再び治まります。
ということは……逆に攻めてみます。
座って腰を曲げる負荷をかけてみますが、その後に立っていただきベースラインの変化を確認しますが、これはあまりはっきりした変化がありません。
(FISitting 5回 NE)
さらに5回、今度は少し負荷を増やしてやってみます。再びベースラインの変化を確認します。
右膝の違和感はどうです?
少し軽いかも…
(FISitting w/op self 5回 B 膝の違和感軽減)
今回はベースラインの疼痛が軽いため改善のスケールが取りにくいのですが、伸展では症状が再現され、屈曲では少し良いような印象なので、とりあえず、次回まで実施するエクササイズを屈曲方向に決めます。
注意点などご説明し初回セッションを終了しました。
(FISitting w/op self 5回/セットでできるだけ)
そして3日後……
症状の変化についてお伺いすると、あまり変化はありません。
エクササイズはとお伺いしてみたところ、一日10セットくらいできています。文句なしの回数ですね。
そこで、具体的に階段と車に乗る時どうだったかとお伺いしてみたところ、
階段では気をつけているので痛くなかったし、クルマに乗るときもそう言われてみると痛くなかったかなぁ……
実は当院に来院されてから以降、右膝痛らしいい右膝痛は一回もなかったようです。
まだご本人は半信半疑ですが、今回もどうやら腰のようですね。
マッケンジー法ではその人の生活状況がわかるように詳しくお話を伺い、その情報から検査の手順など考えますが、今回のような予測に反したことが起こったとしても焦ること無く検査をすすめて行ける、安定した評価システムと言えます。