ソファに横になって起きたときから右肩が痛くなりました
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右肩痛を主訴に来院された50代女性の患者さんです。
バレーボールが趣味で、週2回、一日2時間ほど楽しんでいます。1〜2年ほど前からこれといった外傷などの記憶は無いのですが右肩に痛みを覚える様になりました。バレーボールでアタックするときなどに特に痛かったようです。
一昨日ソファに右を下にして横になっていて起きたときに右肩が痛くなっていたため来院しました。
美容師さんで一日5時間ほど立ちっぱなしのお仕事です。
座った姿勢を観察すると、やや頭が前に出ています。
(protruded head+)
単純X線写真では頚椎にはストレートネック、変性所見などを認めますが、右肩には異常所見はありません。
レッドフラグ無しですので評価を続けます。
右肩が痛いのですが、さてマッケンジー法での診察は……そう頚椎から評価するんでしたね!
まずは頚椎の可動域(ROM、アールオーエム)を確認します。頭を後に引く動作で右頚部痛3点(考えうる最大の痛みが10点満点として)、伸展(上を向く)は重度制限があり、同様に3点の疼痛があります。
(RET produce 右頚部痛 NW、EXT produce 右頚部痛 NW)
座位でじっとしているときには右肩痛1点、前方挙上では途中に耐え難い痛みが、外転(外側に手を挙げる)は90°でやはり強い痛みがあります。
伸展可動域制限、疼痛はありません。
(FLX PDM 10点、ABD 90° ERP 10点)
さて、この肩の可動域制限と痛み方をみると、肩をもっと評価したくなりますよね……でも、やはり頚椎ファーストです。
姿勢を整えた上で、頭を後に引く動作を5回、
手を上げるのやってみましょうか
あっ、さっきより痛くないです
前方挙上と外転時の疼痛は7点に少しだけ軽くなりました。
(RET w/op 5回 better、前方挙上時痛、外転時痛 7点)
さらに伸展までいれて5回、今度の改善はごくわずかで、まだ肘を曲げ肩関節内旋位での外転は10点と激痛です。
はじめての割にはうまく出来ている方なのですが、伸展がまだしっかりとは出来ていない印象で、
もっと、もっと、もうこれ以上無理〜……っていうくらいまでしっかり!
と声をかけながら再度5回。
そして再び右肩を動かしてみると……
だいぶいいです!
前方挙上、外転時痛 3点にまで改善し、先ほど激痛だった内旋位での外転も10点から7点と我慢できるくらいの痛みに改善しています。
(RET+EXT w/op 5回 end range意識して B 前方挙上時痛、外転時痛 3点、内旋位での外転7点)
ご本人に姿勢と今回のエクササイズをご説明し、エクササイズが何セットくらい出来そうかとおたずねしたところ、10セットはできそうと宣言されました。
というわけで、翌日その結果がどうなっているかを確認させていただくことに。
そしてその翌日……
エクササイズはお約束通り10セットほど出来たようです。
痛みについてお伺いすると、
もう痛くないです!
と嬉しそうでもあり、恥ずかしそうでもありという表情。
やっぱり姿勢だったのかと思うと恥ずかしくて……
もう全く痛くないとぐるぐると手を回して見せられます。
この50代、比較的急性に発症した右肩の疼痛と可動域制限をみて、おそらく多くの方々は「五十肩」などの病名が頭に浮かんだのではないでしょうか。
しかしながら結果は頚椎の評価とエクササイズの実施のみで劇的に改善してしまいました。
今回は1日のエクササイズで症状としては完治に至りましたが、今後の維持・再発予防についてお話しをさせていただき、ちょっと早いですが卒業としました。
画像所見、理学所見がどうであれ、結局のところ「実際に動かしてメカニカルな評価をしてみないと何とも言えない」という事でしょうか。