case_314 右股関節痛

変形性股関節症で人工関節の日程も決めましたが…

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は右股関節痛のある50代女性のお話です。

歩いて回るお仕事で、それに加えて仕事の内容をパソコンでまとめるような生活を送っています。1年半ほど前から右股関節のあたりがなんとなく痛いと思うようになり時々整骨院に行って施術を受けていました。
3週間ほど前に、特にこれと言って普段と変わった仕事ぶりではなかったのですが、仕事の後に右臀部にいつもより痛みが強いことがあり、行きつけお整骨院が閉院したため別の整骨院に行って施術をうけてその日はそれなりに痛みが軽くはなりました。翌日はお休みであまり変わったことはなく、その翌日のこと。仕事帰りに痛みが以前よりさらに強くなり歩きにくく足を引きずるような感じで帰りました。これまで整形外科にかかったことがなく一度は整形外科にかかってみようと考え近くのクリニックにかかったところ、単純X線検査で右股関節の変形に加えさらに穴が空いているので大きい病院へ行くようにと言われて整形外科の手術をできるような病院へ紹介されました。
そちらの股関節手術担当の先生は年齢のことも考慮してか、少々手術を躊躇しているような様子ではあったものの、痛みを取るためには手術しかないと言われ、手術の日を来月か再来月のどちらかで計画すると言われ、ならば早い方がと来月に手術をすることを決めていました。

その後、知人にその話をすると人それぞれに治療法についてさまざまな意見を聞くようになり、手術を受けた方が良いのかわからなくなってきたところで、当院のリハスタッフから話を聞く機会があり手術の前に当院でのマッケンジー法の評価治療をうけてみてはとすすめられ来院しました。

前屈みで右臀部から股関節の痛みがきそうな不安から前屈みもしづらくなっています。数日前からは痛みであぐらもかきにくくなりました。
立ち上がって歩き始めは特に痛いのですが、歩いているとむしろ症状は軽くなるような感じがするようです。

歩く様子を観察すると右脚をつく時にかばっていますが、杖はつかずに歩ける程度です。

単純X線検査ではたしかに右股関節に進行期の変形性股関節症があるのがわかります。腰椎には変性と軽度の側弯を認めますが運動して問題になりそうな病変はありません。

座っている時には右臀部に違和感がある程度です。

まずはそのまま姿勢を矯正してしばらく保持してみましたが特に変化はありません。

続いて腰椎の可動域を確認します。腰を横に動かす動きで少し制限と3点の痛み(考えうる最大の痛みが10点満点として)があります。

(LSG 中等度制限 右股関節外側痛 3点)

うつ伏せになっていただきます。

佛坂
佛坂

いまさっきの右のお尻あたりの違和感はどうですか?

A子さん
A子さん

今は……なんともないです

(腹臥位持続 abolish 右臀部違和感)

肘をついて上体を少し起こして保持してみます。

少しだけ右股関節の前の方が突っ張る感じがありますが痛みというほどではないのでそのまま続けてみます。

佛坂
佛坂

突っ張った感じどうです?

A子さん
A子さん

少し慣れてきたような感じです

上体の起こし方をご説明して上半身を起こす、MDTで一番知られている腹臥位で腰椎を伸展する動かし方を繰り返してみます。最初の数回は少し右股関節の前の方の痛みが強い感じもありましたが戻ったら痛みは残らない状態なのでそのまま続けて、徐々により高く体を持ち上げて行き、トータル10回。

佛坂
佛坂

立って歩いてみましょうか

A子さん
A子さん

まだ痛いですけどだいぶいいです

(EIL 10回 B)

良い印象なのでもう一度腹臥位で上半身を持ち上げる運動を10回、今度はさらに負荷をかけるやり方を試してみます。

A子さん
A子さん

背中と腰が痛いです…

続けても大丈夫な程度で、戻ったら痛みは残らないことを確認し、続けて10回。

佛坂
佛坂

もう一度歩いてみましょうか

A子さん
A子さん

普通に歩けます!…さっきまで足引きずってたのに

(EIL w/sag 10回 B)

付き添いで来ているご主人の目で見ても歩き方が変わったことがわかるようです。

方足立での腿上げをしてみますが、どちらの脚も同じ程度に腿上げできて、その際に体が傾くことがありません(トレンデレンブルグ徴候なし)。股関節の変形があるものの痛みが軽減した直後に歩容が改善したということは筋力低下が無かったので、今回の足を引きずるほどのエピソードが患者さんからのお話通り比較的最近起こったことだということと合致します。

エクササイズの注意点などご説明し初回評価を終了しました。

今回のお話、皆様はどう感じられたでしょうか。

右股関節の変形は進行期であることは間違いなく、症状は股関節まわりの症状の急性増悪で、整形外科の病院で手術を勧められたというのは間違いではないでしょう。

しかし、MDTにより評価した結果は腰椎の伸展エクササイズで今回の急性増悪の前程度の軽い症状に改善してしまいました。もちろん変形した股関節はそのままであることは言うまでもありません。今回は症状が一旦改善はしたものの、ひょっとするといずれ本当に人工関節の手術になる日が来るかもしれません。

一方、股関節の変形が進んでいる人でもさほど股関節の痛みを感じずに生活できていて手術を免れている人がいることも事実です。変形があっても痛い人も痛く無い人もいる…その違いについて、整形外科の世界では未だに明確な説明ができていません。

手術しか治療法がないと言われるほどの変形があっても、まずはMDTによる評価をすることで手術の時期を遅らせる、あるいは手術が要らなくなる可能性もあるということを今回のお話からお伝えできれば幸いです。