case_308 左膝痛

朝起きて歩き始めた時に激痛が走りました

整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもあるがどのようにマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は左膝が急に痛くなったという40代男性のお話です。

趣味は釣りで、時々釣りに行きます。この数年ほど、年に一回くらい左膝に違和感、軽い痛みがあることを繰り返していましたが、痛み止めを飲んで様子見ているとそのうち良くなるということを繰り返していました。

10日前くらいからまた同じような違和感のような症状が少し出てきて、あぁまた来たかと思っていましたが、数日前の朝、起きて歩き始めた時に激痛が走りました。今回は症状が強いため、整形外科にかかり、MRIを撮影してもらったところ、外側半月板の断裂があると言われ、ヒアルロン酸注射を勧められ、注射の治療を受けました。注射の直後はより膝が張ったような重い感じになり、少々歩きづらかったのですが、しばらくすると元に戻ったくらいで良くなった感じはなかったようです。5回くらい注射を続けると良いこともあるという説明を受けましたが、その前に一度他の意見を聞いてみようと相談を受けました。

激痛の時は10点(考えうる最大の痛みが10点満点として)みたいな痛みがあって膝が曲げられない感じだったようですが、今は幾分落ち着いて膝を曲げる時に3点くらいの痛みが左膝の後外側あたりに感じます。

座ってじっとしている時も、左膝の張ったような違和感のような感覚はあるようです。

現在の症状を確認すると、座ったままで左膝を伸展しようとすると、伸展しにくい感じと軽い痛みが同じ後外側のあたりにあります。

立ち上がる動作は少し意識して立ち上がれば痛みが強くなることはないようですが少し引っかかる感じと、座る動作の途中で少しピリッとするタイミングがあります。

MRIで半月板の断裂があると言われていますが、MDTではやはり脊椎のスクリーニングから行います。

姿勢を矯正して保持すること1分。

佛坂
佛坂

今、膝の違和感どんな感じですか?

B男さん
B男さん

なんか血流が戻ったような熱い感じがします

姿勢を変えただけで少し膝に感じる感覚が変わったのがわかりました。

腰椎の可動域を確認すると、元々そうだったようですが、屈曲も伸展もかなり硬いのがわかります。伸展する時に、左膝に痛みが再現されました。

立ったままでさらに2回ほど伸展してみましたが、やはり痛みがあるので、うつ伏せになってみます。

うつ伏せになった状態では特に痛みや違和感はないようです。

うつ伏せでの腰椎の伸展をまずは一回。

佛坂
佛坂

膝の痛みどうです?

B男さん
B男さん

これは痛くないですね

このうつ伏せで腰椎を伸展させる運動は、「マッケンジー体操」などとしてあまりマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)をご存知ではない方が不十分あるいは誤った情報をYouTubeなどで紹介されているのを見かけます。正式なマッケンジー法では症状の変化を確認する事なく一律に同じ体操を指導することは決してありませんので、このような動画はおおよそ視聴回数稼ぎ的な動画と思われます。くれぐれもご注意ください。

さて、うつ伏せでの腰椎伸展はできそうですから、同じ動きをトータル10回続けてからもう一度椅子に座ってもらいます。

佛坂
佛坂

座る時の痛みどうでした?

B男さん
B男さん

まだ少し痛いですが、さっきとは違います

佛坂
佛坂

立ってみましょうか

B男さん
B男さん

引っかかる感じがないです

いい印象なので、さらに10回、今度はさらに負荷を少し増やして腰椎の伸展をやってから、また同じように立ち座りを確認します。

B男さん
B男さん

まだ多少意識はしますが、意識してれば普通に立ち座りできます!

座ったままで膝を伸ばす動きもスムーズに力が入れやすくなっているようです。

立った状態での腰椎の可動域も再度確認してみます。

佛坂
佛坂

前屈み、さっきと比べてどうです?

B男さん
B男さん

なんかだいぶしやすいですね、さっきより曲がってる気がします

伸展はまだ少し膝に響くようですが、屈曲の可動域がかなり改善しているのがわかります。

初回の評価はここまでにして、腹臥位での伸展エクササイズのやり方など再度ご説明し宿題にしました。

翌日、症状を確認すると、かなり良いようで、自分でも半月板が悪いのではないと実感できたようです。といっても、まだ完全に良くなっているわけではありません。エクササイズ後に膝の症状はかなり改善するけども、徐々にまた症状がでてくるの繰り返しだったようで、さらに負荷のかけかたと頻度、体の負荷のかかっている部位を意識してエクササイズを実施するなどの指導を追加し経過を見ることになりました。そしてその後、初診から2週間ほどしたころ、エクササイズの実施のみで症状は全くなくなったことを確認いたしました。

これまでにも画像所見と臨床症状との不一致については何度かご紹介してきましたが、無症状の膝であっても、MRI画像で半月板断裂などの異常所見が見つかる事は稀ではありませんし、症状と画像所見との不一致についてはすでに多数の報告がなされています。しかし、急性発症の膝痛と引っかかり感、MRIでは断裂の所見などがそろうと、おそらくほとんどの場合、半月板断裂による膝の痛みと考えて半月板の内視鏡手術などが選択されるのではないでしょうか。

膝が痛くなってMRIで半月板損傷がみつかっても、その膝の痛みが半月板断裂による痛みとは限りません。腰椎に対する介入で膝の症状が改善することがあるということを、今回のお話からお伝えできれば幸いです。