YouTubeなどでいろいろ調べていますが…
整形外科専門医であり国際マッケンジー協会認定セラピストでもある私がどのようにマッケンジー法(MDT, Mechanical Diagnosis and Therapyとも呼ばれます)による患者さんの評価・治療を行うのかをご紹介するマッケンジー法・症例ファイル。
今回は腰痛が半年以上続いているという70代女性のお話です。
もともとボウリングやカラオケなど週一回でかけるなど比較的アクティブな生活を送っていましたが、8ヶ月ほど前に腰からお尻の辺りが痛くなり、整形外科にかかったところ、腰椎椎間板ヘルニアと診断されました。その後、症状はある程度軽減していたのですが、腰の痛みはだらだらと続いていたようです。数週間前に剪定作業をしていて、両臀部の痛みが強くなり、YouTubeを検索して改善できないか情報収集したのですが、いろんな情報がありすぎて何をして良いのかわかりません。
お知り合いの方から当院でエクササイズの指導を受けることをすすめられ来院しました。
YouTubeではいろいろ調べられているようで、どちらかというと自分は座っていても背筋を立てて姿勢がいい方なので、反り腰が悪いんじゃないかと感じているようです。
朝起きた時が一番悪いようで7点(考えうる最大の痛みが10点満点として)の痛みがあり、しばらく腰が伸びない感じで少し動いているとだんだんと腰が伸びて動けるようになります。長く座っていて立ち上がる時や前屈の状態が続くと痛みがより強く感じられます。いつも違和感程度の症状はあるようですが、気にならないときもあります。
診察室で座ったままお話を伺っている間の腰の痛みは3点でやはり気になる程度の痛みはあるようです。
座っている姿勢は背筋が伸びて決して悪い姿勢ではないのですが、さらにしっかりと姿勢を矯正して保持して1分ほどしてから伺います。

先ほどの3点の痛み、今はいかがです?

さっきより軽いですね…
立っていただきます。まだ少し用心しながらという感じでの立ち上がり方です。

痛みました?

いや、今は大丈夫でした
腰椎の可動域を調べます。
腰椎の屈曲は手が床につくほど曲がり戻る時もさほど強い痛みはありません。側方の動きも制限なくできるのですが、伸展(腰を反らす)があまりできないことがわかりました。
問診情報からも腰椎の伸展方向で症状が改善しそうですから、まずは腰椎の伸展方向への負荷をかけてみることにしました。
うつ伏せになっていただき、肘をついて上半身を上げたパピーポジションとよばれる姿勢をとってみます。

腰の痛みは大丈夫ですか?

痛くはないんですが、腰がきつい感じです
少しそのままの状態を続けた後に、腰痛が悪くなっていないことを確認し、今度は手をついて上半身を持ち上げる動き、そう、マッケンジー法といえばこれだけのような誤った情報の元になった動きをゆっくりと繰り返してみます。
数回繰り返して大丈夫のようなので、手をより手前についてさらに体を高く上げて、トータル10回の伸展運動の後に起き上がっていただきます。

腰の痛みどうです?

軽くなりました!
椅子に座ってもう一度先ほどと同じように立ち上がってもらいます。

今の腰の痛みどうでした?

大丈夫でした!
まだ少し本当に大丈夫だろうかといった用心している感じはありますが、症状がかなり改善したことは確認できました。
エクササイズのやり方や長く座りっぱなしの後の立ち上がる前の腰の整え方などご説明し初回評価終了しました。
YouTubeにはさまざまな医療系の情報がアップされていて、情報収集源として活用されている方も多いのではないでしょうか。
もちろんそれらを利用するのは個人の自由なのですが、YouTubeの情報があまりにもたくさんありすぎて医療系の基礎知識がない方は何を信じて良いのかわからなくもなるでしょう。例えば「マッケンジー法」で検索すると、何やら体操法を紹介するような、明らかにマッケンジー法をきちんと勉強すらしたことがないような人の投稿もでてきます。
ここでは個別にYouTube情報の信頼度についてお話しすることはできませんが、一般的に、「腰痛ならこの体操で治ります」のようにある病態に対して一律にこのやり方だけで治るかのごとく勧めているものは集客目的のかなり怪しい情報と考えて間違いないでしょう。なぜなら、人の体はそれぞれ異なるのと同様、同じように見える痛みも人によって原因は違いますし、その治し方も当然異なります。
マッケンジー法では患者さんの症状を詳しくお伺いし、いくつかの姿勢検査・反復負荷検査を行い、その検査に対する症状の変化を確認しつつ、それぞれに合う体の動かし方を決めていきますから、患者さんを診ずに一律に何かを指導することは一切ありません。マッケンジー法は個々に合わせた完全カスタムメードの評価・治療法なのです。